闇色の羽が舞い落ちた
「……以上です。」
「へへっ、ありがとよ。ほら、金だ。」
机に無造作に散らばった金貨をまとめると立ち上がって客が出ていく後ろ姿に一礼する。 これで今日の営業はおしまいだ。さっきのでインクが切れかけたから買い出しに行かないと。
それから、今日は何を食べようか。 そんな事を考えながら手早く片付ける。
──ドサッ
「ん?」
今、何か落ちた音がした。 木の枝でも折れた?でもそこまで悪天候って訳でもない……。
片付けを大雑把に済ませて家を出る。
「!?」
裏口に回ると不思議な生き物が横たわっていた。 具体的に表せば「鴉の上半身」と「狐の下半身」を持ち合わせた、いわゆるグリフォンと呼ばれる生き物に似ている。
「生き、てる?」
軽く触れると僅かだが確かに動いている。 だがこのまま放っておく訳にもいかない。ここには不作法者も訪れるのだ。
翼の下に体を滑り込ませて胴体を背負うとふらつきながら立ち上がる。それほど力がある訳では無い、自身より大きい胴体を支えてるだけで脚が崩れそうだ。 下半身は地面に引きずられているがこの際不可抗力、後で綺麗にしておこう。
少しずつ、崩れそうな脚を叱咤しながらすぐ傍の裏口を目指す。 普通に歩けば10歩程度なのにまるで月を追い掛けるような果てしない錯覚を覚える。
裏口を大きめに設計しておいて良かった。もし自分さえ通れれば良い、なんて考えで設計していたなら表へと回らなければならない。
ようやく裏口に辿り着いた。 その有り難みで一瞬、安堵で気が緩んでしまった。
「うっ、うわああっ!!」
ただでさえ体力の限界を気力で押さえてきたのだ。 そこに気の緩みが発生してしまえば後は想像に難しくない。
悲鳴と共にその場へ倒れこんでしまった。背中の荷物に潰されるというオマケ付きで。
「ぐはっ…!!」
その衝撃で肺から空気が押し出された。出た分の空気を上手く取り込めずむせる。 背中の生き物は余程体力を消耗していたのだろうか、これだけの事が起きても目を覚ます気配が無い。
しばらく何とか必要分の酸素を吸い込めるようになるも、体力は既に使い果たしてしまい身じろぎするのが精一杯だ。
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