「マスター、これプレゼントです。」

「そうか、ついに僕を毒殺するまで追い詰められたんだね。」

「違います。つーか追い詰めてる自覚あんならちったぁ改善しろよ!!」


本気でこのクラゲ頭をかち割りたくなった。
綺麗な銀髪を血に染めたくなった。




私が彼にプレゼントをあげようと思ったのは今日がバレンタインだから。
もちろんプレゼントはチョコレート。

今日のために暇を見つけては練習を重ねてきた。マスターが寝ている時とか、とにかく目を盗んで。

言葉にする事なんてできないから大した意味が無い“ふり”をして渡す。
……意味は伝わらなくても良い。気付かれなくても意味のある物が渡ればそれで良い。


「……いらないんですか?」

「どうしようかな。」

「真っ赤な髪にしてやろうか。」

「結局僕の答えは決まってるんだね。」


多少強引にでも受け取らせてやる。
マスターの性格じゃ正攻法で行っても無駄になるだけだし。


「で、中身は何だい?」

「えっ……チョ、チョコ、……ですけど。」

「やっぱり毒殺だ。」

「てめーの死因は撲殺だ。このろくでなし。」


人の気も知らないで…!教える気も無いけど、指摘する気も無いけど。
今日チョコを渡すんだから少しくらいその口を何とかしたらどうなんだ。

……なんか虚しくなってきた。
そもそも何でチョコ渡そうと思ったんだっけ?ああ、バレンタインだからだ。


「くれないの?」

「えっ?」

「だからチョコ。珈琲菓子にしようと思って。」

「珈琲菓子って何だよ。」

「お茶菓子ならぬ、ってとこかな。」
……何言ってんだか。

でも受け取ると言うのだか渡す事にする。


「どうぞ。」

「……ザッハトルテ?」

「Perche!?」


あんまりびっくりしたもんだから母国語が飛び出てしまった。
どうして分かったのだろうか?


「僕が好きだから。」

「人の心を読まないでください。」

「それに僕の生まれ故郷のお菓子だから作った。違う?」

「心の声は聞かなくて良いんで現実の声を聞いてください。……って!今なんて言いました!?」


私の聞き間違いじゃなかったらとんでもない事口走ったような気がする。


「『そうか、ついに僕を毒殺するまで追い詰められたんだね』?」

「ちげーよ。どんだけ戻ってんですか。」


何だか疲れてきた。どうせ大した意味なんて無いだろうし。

なんて事考えてる間にマスターは渡した包みを開けていた。


「美味しそう?」

「何で疑問系なんですか。」

「ありがとう。」

「ねぇ、聞いてます?」

「僕の好きな物、よく知ってたね。皆知らなかったのに。」


そっちの“好き”でしたか。
少しだけ期待してた私がバカだった。


「あ、そうだ。」

「はい?」

「これあげる。」


……そう渡されたのは押し花の栞だった。それ以外に特徴は無い。
花だって店の周辺で咲いていたのを見掛けた事がある。


「あの、これ…。」

「僕が作った。」


意外や意外。エルフはこういった事を得意とするのは知ってたけど、うちのマスターもその例に含まれていたとは。




この人は知っているのだろうか?
私の国でのバレンタインは『男性が愛する女性に贈り物をする日』という事を。


「マスター、あの……大事に使います。」

「燃やさないでね。」


知らないのかも。
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