さて、この状況をどうするべきか。
目の前に広げた“赤と白”の着物を見やる。




 ─回想─

「華鳥様……今、何と?」

「ハナの、ために……なん、でも……して、くれる……から……おれい、したくて…。」

「華鳥様、お気持ちだけで十分です。」

「うけ、とって……くれる?」


流された。
人の話を聞く気があるのか、問いただしたくなる気持ちを押さえ込む。


「分かりました。華鳥様がそこまで仰るのならば受け取らない訳にはいきません。」


そう言うと嬉しそうに笑うのだから余計に断れない。

いそいそと後ろから箱を取り出す主を黙って見やる。


「コウ……これ…!」


そんな輝かしい目をしないで下さい。

丁寧に包装された箱はやや大きめ。
嫌な予感がする。だが断るという選択肢を破棄してしまった今、なすべき事は受け取ってさっさと退s


「きて……ね?ぜったい……にあう、から…。」

「は?」

「いや…?」


着る、という事は着物だろうか。
と言うより“嫌”というのはどういった意味で…。


「えっと……ハナ、そとで……待ってる、ね。」


言うが早いか出ていってしまった。
疑問系だったのにいつの間にか強制になっている。




「…………ふぅ。」


誰も居なくなった室内で一人ため息を吐く。

意を決して箱を開けた瞬間……言葉を失った。


白の小袖に緋袴――これを説明するのはたったの四文字。


《巫女装束》



華、鳥様?これが、似合うと?私に似合うと?
そもそもこれをどうやって手に入れたのですか?


 ―回想終了―
障子の向こうでは我が主が待っている。
……着るしかないのだろうか。


躊躇っている最中にも時は流れていく。ちらりと振り返れば大人しく待っている主の姿が障子越しに透けて見える。


ようやく腹を括り着物を脱ぐべく手を掛けた。





着替え終わり改めて自分の姿を見下ろす。
……情けない。あまりにも情けない姿に目眩がしてきた。


「華、鳥様……着替え終わりましたよ。」


障子の向こうへそっと声を掛ければ待ちわびたと言わんばかりに滑る障子。
嗚呼、あまり凝視しないで下さい。


「コウ……にあう……にあう、よ…!」


その輝く瞳は私に喜べと言っているのでしょうか。


「あ、のね…。ハナ……コウの、かみ……ゆいたい、な…。」

「髪、ですか?」

「…………。」

「構いませんよ。華鳥様のお好きになさって下さい。」


この際どうにでもなれ。

僅かながら投げ遣りになってしまったのは仕方ない。
笑顔で誤魔化せただろうか…。


「…………。」


黙々と、しかしどこか嬉しそうにたどたどしい手付きで髪を結い始めぇっ!?


「か、華鳥、様?」

「いた……かった、ら……ごめん、ね。」


痛いという程度ではありません。
貴方の仕草は髪を結っているのではなく、髪を引きちぎっているのです。

なぜ髪を結うのに足の裏を背中に当てるのでしょう。
なぜ髪を結われるのにこんな痛い思いをするのでしょう。

ぶちっと音が聞こえたのですが気のせいでしょうか?




「でき……た。」


やっと終わった…。

歪つなそれはどうやら三つ編みらしい。
主のやり遂げたと言わんばかりの表情を直視出来ない。


「コウ……ほん、とうに……おんなの、ひと、みたい…。」


それは私に女々しいと言っているのでしょうか。


「お褒めに預かり光栄です。」

「……コウ……あのね……もいっこ、おねがい…。」

「何なりとどうぞ。」

「きょう……きて、て……ほしい、な。」


一日この姿で過ごせと?




結局。断る事が出来ず一日中巫女装束を着て過ごしたせいで訝しげな視線を向けられたりしたのは言うまでもない。

私は何か貴方の不興を買うような真似をしたのでしょうか?
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