ゆらゆらと水面へ浮かび上がるように、するりと、わたしの意識は覚醒する。
 視界いっぱいに広がる白い天井。少し視線をずらして、ベッドの脇ではロックオンが座って本を読んでいる。ぼんやりとその姿を眺めていると、ふと、顔を上げた彼と目が合った。

「気が付いたか、なまえ。おまえ、覚えてるか? 熱出して倒れたんだぞ。体調が悪けりゃ休むのも仕事の内だって言ったろ」

 咎めるような呆れたようなロックオンの声音。どこか他人事のようにその声を聞きながら、全身の倦怠感も頭の奥で疼く鈍痛も、曖昧な世界の輪郭も、全て熱の所為なのだと結論付ける。目を開けていても、たゆたうような感覚が消えない。
 そんなわたしの様子に、「まだぼーっとしてるみたいだな……」。ロックオンがひとつ息を吐き出した。わたしの体温が高いからだろう――いつもよりひんやりとした手が額に触れる。

「折角目が覚めたんだ、何か欲しい物は?」
「何もいらない、から……もう少しだけこのままでいて」
「お安い御用だ。怖い夢でも見たのか?」
「……うん、」

 内容はよく覚えていないのだけど、何かとても大切なものをなくしてしまう夢だったような気がして落ち着かない。思い出せないことがもどかしい。何かがひどく胸につかえるような、感覚。
 けれど、朧気な記憶を必死に辿ろうとするわたしの思考を遮るように、ロックオンのてのひらがわたしの手を包み、額に口付けが落とされて。たったそれだけでどうしようもなく安堵したわたしは瞼を伏せた。

「……ま、何にせよ、全部夢なんだ、細かい事は気にしなさんな」
「……う、ん、……もう少しだけ、眠るね、」

 その瞬間、微睡みに溶けてゆく意識の中で、唐突にわたしは理解する。自分でも意外なほどに冷静だった。
 そうか、ぜんぶゆめなんだ。 目を覚ませば彼はいない。わたしがうしなったのは彼。この穏やかな世界こそまぼろし。
 それでも、繋いだ手の感触も額に触れる唇の熱もこんなにもリアルなのは、わたしが彼を覚えているから。すべて、わたしの中に残っているからだ。

「……ろっ、く、おん、……すきだよ、だいすき。ずっと、一生、」

 譫言じみた言葉と共にわたしは涙を零して、ロックオンは、少しだけ困ったように笑っていた。
(おやすみ、)

***

 目を覚ましたわたしの視界を占めるのは白い天井。少し視線をずらして、ベッドの脇で座って本を読んでいるのはティエリア。恐らく、ここは医務室だ。

「……様子、見に来てくれたの」
「ああ」
「わたし、どれくらい寝てた?」
「丸一日といった所だ」
「そう。明日からはちゃんとするよ」
「……無理はしなくていい」
「優しいんだ、ティエリア。でも大丈夫。ちゃんとできるよ」

 半身を起こしてわたしが笑って見せると、ティエリアは少し複雑な顔をした。



永久に続く思い
title request:『永久に続く思い』
20120911

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