刹那は最初、見間違いかと思った。そして、それが見間違いでも何でもなく紛う事なき事実である事を理解すると、次に、何らかの事情で一般人を一時的に保護しているのだと考えた。
 それ程までに、四年ぶりに帰ってきたこの場所に自然に溶け込んだ、けれど四年前には存在しなかったその姿は、刹那の目にどうしようもなく不自然に映ったのだ。

「こうして顔を合わせるのは初めてでしたか、刹那・F・セイエイさん。私の事はなまえとお呼び下さい。貴方が不在の間に新たにクルーとなった者ですわ」

 思わず黙りこくる刹那に向けて少女が言った。柔らかな笑み、慇懃な言葉遣い、平坦な声。彼女が口を開いて、曖昧だった違和感がはっきりと浮き彫りになる。
 一言で言えば歪だった。笑みも言葉も声もまるで武装しているようで、そのどれもが、まさに『少女』と呼ぶに相応しい幼さの残る容貌にそぐわない気がした。

「……おかしいですか?」

 そんな刹那の思考に割り込むように、心の底を覗くように、少女は坦々と言葉を続けた。「私のようなこどもがここにいる事が。けれど、貴方とて、私の年の頃にはここにいらしたのでしょう?」。
 歪な印象だけが助長されていく。彼女が自らを指して『こども』と形容した事も、少しずれた論点も。大人ぶったこどもを演出しているようだと感じるのは、さすがに穿ちすぎだろうか。
 「刹那さん?」。かと思えば、実にこどもらしく小首を傾げながら遠慮がちにこちらを見上げてみせる。「……ああ、いや、すまない」。答えながら、刹那はこの少女の事を、ただ得体が知れないと、そう思った。

「よろしく頼む、なまえ」
「ええ、はい――これも巡り合わせ、ですものね」


(こどもらしからぬ巧妙さで以て腹の底をはぐらかす少女は、そうして意味ありげに小さく笑った)(彼女は言葉と笑みで武装する)



クールな彼女は、
title request:『クールな彼女は、』
20120321

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