わたしはシャワーを浴びるよりもゆっくり浴槽に浸かる方が好きだ。バスオイルを垂らしてみたり、キャンドルを浮かべてみたり。ぬるめのお湯に浸ってぼんやりする時間が、何よりも好き。
 そして、そこに大好きなひとがいてくれたらもっといい。二人で入るには少し狭いけれど、それだって、いつもよりくっつく為の口実になるから。

「アニュー、」

 抱きかかえられるようにして、アニューの両足の間に収まるわたしは、背中からべたりとアニューに寄りかかる。目が合って、「なぁに?」とアニューが笑う。

「……わたしも、アニューみたいになりたかった」
「どうして? なまえは今のままで十分可愛らしいわ」
「だって、」

 アニューは背だって高くて、綺麗で、何だってできてしまう。対するわたしは、背は低いし体つきも貧相で、いつもアニューに世話を焼かれてばかり。
 構ってもらえるのはうれしいけど、それではダメだ。わたしはアニューを守れるわたしになりたいのに、今のままではあまりに頼りない。そりゃあ、わたしだってイノベイターの端くれだから、見た目通りのただの子どもという訳ではないけれど。でも、見た目だってそこそこ大事だと思う、のだ。
 思うだけで、そんなことを言えば余計に子どもっぽいような気がして、結局わたしはフイと視線を逸らして押し黙る。「あら、そんな風に思ってくれているの?」。それでも、そんな些細な抵抗には幾許の意味もない。
 アニューが笑って、僅かに水面が揺らぐ。

「アニューは何でもできるけど、でも、だからって何でも抱え込まないで、よね。……わたしにだって、ちょっとはできること、あるんだから」
「ふふふ。そうね、頼りにしているわ」



まるで初恋みたいじゃないか
title:選択式御題
word request:「何でも抱え込まないで」
20120204

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