「カタギリ、しばらくなまえを借りるぞ」

 そんな風な声が聞こえたかと思うと、わたしはすぐさま手を引かれ、その場から強制的に連れ出されてしまう。
 「え、?」。あまりに唐突なその出来事に理解が追い付かず、咄嗟に、つい先程まで話をしていた筈の、現在進行形で遠ざかっているカタギリさんを見遣る。すると、彼は困ったように肩を竦めた。わたしもそれに苦笑で返して、脚がもつれそうになったところで、諦めて前へと向き直る。

「あの、中尉、」
「君とカタギリは些か仲が良すぎる」
「……は、い?」

 ちらりとも振り返らないまま、グラハムさんはそう言った。
 確かに、わたしとカタギリさんは仕事仲間という関係以上に親密である。何故なら、カタギリさんには無茶ばかりする友人が、そしてわたしには無茶ばかりする恋人がいるからだ。それは、言うまでもなくわたしの手を引いているこのひとのことなのだけど。

「つまり、ヤキモチですか?」
「ああ、そうだ。私は嫉妬している」

 あ、開き直った。
 けれど、わたしはこのひとのこの呆れるほどの率直さがどうしようもなく愛しくて仕方がないのだ。



愛が軋む音
20110316

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