※ヒロイン→ニール
※誰も幸せになれない話


「ロックオン!」

 むせかえるほどの甘美さを詰め込んだ声がして、振り返ると、小柄な人影が飛び付いてくる。「おっと、」。受け止めてやると、なまえはひどくうれしそうな顔をした。
 この子のことは、クルーの中でも一際強く印象に残っている。何せ、初めて会ったその日、兄さんとそっくり(らしい)俺を見て誰もが動揺なり絶句なりする中で、なまえだけが唯一、穏やかに笑って――「おかえりなさい」と、そう言ったからだ。
 その意味を理解したのは、それからしばらく後のことだった。どうやら、なまえには俺と兄さんの区別がついていないらしい。より正確には、なまえの中で兄さんの死はなかったことになっていて、俺のことを兄さんだと思い込んでいる。それは俺自身を、ライル・ディランディという個を否定する行為に等しく、最初こそ戸惑ったし苛立ちもした。だが、今となってはもうどうでもいい。
 一度、俺はなまえに訊いた。「前の『ロックオン・ストラトス』は、ニール・ディランディは、死んだんだろ?」。それはある種の意地悪い好奇心だった。彼女の『ロックオン・ストラトス』を、彼女にとって世界の大部分を構成するそれを否定されたとき、なまえは一体どうなるのか、と。結果は意外と言えば意外だった。なまえは一瞬きょとんと首を傾げ、「そんなことより、」と、まるで何事もなかったかのように全く別の話を始めたのだ。それは、有無を言わせぬ拒絶だった。
 彼女の心は既に現実を認識することを止めていて、だから、彼女の『ロックオン・ストラトス』は揺らがない。兄さんがこの子にどんな風に接していたのかは俺には知る由もないが、たとえ俺がどんな態度を取ろうとも、なまえは何も言わなかった。
 なまえは『ロックオン・ストラトス』の全てを受け入れていると、そう言えば聞こえはいいかもしれない――けれど、そんななまえを、俺はそれこそ病的だと思った。そして、病気だと思えば腹も立たなかった。
 むしろ、こんな風になるまで兄さんを、誰かを愛せるこの子を羨ましいとすら思うし、同時に、可哀想だとも思う。
 だから、今みたいに「だいすき」と甘い声を出してすり寄ってくるなまえに、俺は適当な相槌を返してその髪を撫でてやる。たったそれだけでなまえはこんなにもしあわせそうに笑うから、だからもう、それだけで。


(彼女の箱庭は決して壊せない)



僕はいつだってあれの代替品で、そんな贋者で我慢しなければならない貴方に同情していた
title:リライト
20110217
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