※1st最終話 「フェルト! キュリオスは?!」 ぞくりと、ひどく厭な予感が背筋を撫でて、わたしは半ば悲鳴のような声を上げた。そうしてフェルトを振り返ると、「……応答、ありません」。返されたのは、憔悴しきった小さな声。「……ッ、!」。目の前が真っ暗になったような錯覚。世界の最果てを覗いたような、奈落の底に突き落とされたような、どうしようもない感覚。(アレルヤ……ハレルヤ!)。ぐらぐらと揺れる意識の片隅で、わたしはまるで――それこそ走馬灯のように、昔のことを思い出していた。 *** アレルヤとの付き合いはもう随分長くなるけれど、実際、わたしがハレルヤと対面したのはたったの二回きりだ。 一度目は食糧も酸素も尽きかけたあの血なまぐさい脱出ポッドで殺し合ったときのこと。そして二度目は、ソレスタルビーイングに入って、アレルヤはガンダムマイスターに、わたしは整備士になった後のこと。わたしが展望室でぼんやりと外を眺めていると誰かがやってきて、振り返ると、それはハレルヤだったのだ。 「ああ――久しぶりね、ハレルヤ?」。目が合って、それでもハレルヤが何も言わなかったから、わたしはそんな風に声をかけた。「あの日の続きでもしに来てくれたのかしら」。するとハレルヤは酷く億劫そうに口を開いて、「そんなに死にてーのかよクソ女」。金色の右目がわたしを睨む。 貪欲なまでに生に執着するぎらついたその光は、初めて会ったときと少しも変わらない。誰よりも生きたがっていたハレルヤは、だから、あの日あのとき同胞を殺し、わたしとも殺し合って――けれど、それなら、わたしは? 「わからないの」 「テメェだって必死こいてただろーがよ! あの時! 俺を殺して、テメェが生き残る為に!」 「……ええ、確かにあのときは。でも今は、わからないの」 ハレルヤの行動が許せなかったからのような気もするし、わたしだって死にたくなかっただけのような気もする。どちらにせよ、そこまでして生き残る価値が果たしてわたしにあったのか、今のわたしにはわからない。 鋭い舌打ちが響いて、わたしは無意識にうつむけていた視線を上げる。そうしたときには既に、そこにいるのはアレルヤに変わっていた。「ごめんね」と、アレルヤは言った。「その……酷いことを言って」。銀色の左目が気弱に揺れる。それは、ハレルヤとは全く違う色。 「謝らなくていいわ。ハレルヤが言ったことであって、アレルヤが言ったんじゃないもの。それに、特に気分も害していないし」 「けど、僕はなまえが、僕達と一緒に生きていてくれて嬉しかったよ」 *** アレルヤはああ言ってくれたけれど、結局、わたしは未だわたしが生きているその意味を見つけられないままだった。 そもそも、あのときどうしてハレルヤがあの場所に来たのかもわたしにはよくわからない。ただの偶然や気まぐれの類か、それとも、死んだようなわたしの生き方が気に障ったのか。……いや、ハレルヤがわたしを気にかけていたとは思えないから、やっぱり理由なんてないのかもしれない。しかし何にせよ、生きたがりの彼がわたしよりも先にいなくなってしまうことになるだなんて(何となく直感的に、この厭な予感はそういうことなのだと思う)、何とも皮肉な話じゃないか。 「……はれ、る、や」 わたしは泣いた。おそらく今まで生きてきた中で初めて、誰かのために。 (嗚呼――わたしはきっと、ハレルヤのことがすきだったんだわ)(乱暴でデタラメで存在そのものが暴力のような、)(いつから?)(もしかしたら最初 から、?) 無自覚の暴力 title:選択式御題 20110202 |