僅かずつ、夢と現の境界が曖昧に揺らいで、そうして、わたしの意識は引き上げられるように覚醒する。
 重いまぶたをこじ開けると、最初に視界に映ったのはいつもの天井。寝返りをうって視線を移せば、隣には一人分の空白。「…………」。まだそう慌てるような時間でもないというのに、一体どこへ行ったのだ――と言っても、余程の火急でもなければ黙って帰ることもない以上、二人では少しばかり手狭なこの1LDKで、他にいられる場所などそう幾らもない。わたしは上体を起こして、未だ半ば以上眠ったままの鈍い頭と身体を引きずって部屋を出る。

「ふぁ……ぐらはむ……?」
「ああ、おはよう、なまえ」

 キッチンに立ったグラハムが笑う。「君が起きてくる前に朝食を用意しておこうと思ったのだが……」。聞きながら、わたしは欠伸をひとつ。「寝起きの悪さは相変わらずだな。まずはコーヒーでも淹れよう」。
 適当に返事をしながら、わたしはぐっと身体を伸ばす。寝起きが悪いのはいつものことにしたって、今日は殊更に覚醒が遅い。きっと、グラハムが先に起きたりするからだ、なんて、胸中で子どもみたいに責任をなすりつけておく。口を開くのも億劫だから言わないけれど。
 その代わり、ぽふりとグラハムの背中に抱き付いて、脇から手元を覗く。カップの中にインスタントの粉末を一杯ずつと、それから自分のには砂糖をひとつ、わたしのにはみっつ。あとはお湯を注ぐだけ――「なまえ、」。そこで手を止めてわたしを呼ぶグラハム。「……? あ、邪魔だった? ごめん」。さすがに邪魔になるかと思って離れるわたし。

「いや、離れろとは言っていないだろう。ほら、おいで。私にも君を抱きしめさせてくれ」

 振り返ったグラハムが腕を広げる。そうされれば、いつだってわたしはその中に収まるしかなくなってしまう。
 そういえば、まだ顔も洗ってないや。起きたばかりだから、当然メイクだってしていない。それでもこのひとは。
 このひとの前では最高に美しい自分でいたいと思うけれど、綺麗にしていればそれはそれで褒めてくれるのだけれど、こんなみっともないわたしでも、このひとはいつもみたいに笑ってくれるから。だから。
 嗚呼これが『しあわせ』なのだと、思った。



幸福に形があるとするならばそれはきっと貴方の姿をしている
20111113
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