なまえが倒れた(より正確には、意識を失っていた)と聞いてメディカルルームへ様子を見に行ってみると、彼女は依然目を覚まさないままで横たわっていた。 ドクターによれば頭部を強打しているらしい。命に別状はないようだが、如何せん見つかったときには既に意識がなく、何があったのかもわからないという。全く、心配かけさせやがって。溜息をひとつ吐き出して、その白い頬に手を伸ばす。 ――と、指先が触れた瞬間、微かに震えた薄い瞼がゆっくりと開かれて、「お、目が覚めたのか?」。声をかければ、なまえは起き抜けのまだぼんやりとした視線をこちらに寄越した。 「あんまり心配させなさんな、心臓に悪い。今ドクターを呼ぶからちょっと待っ」 「いや、」 少し冷たい頬(なまえの体温は低い)を撫で、傍を離れようとしたところで、泣き出しそうな声に引き止められる。振り返れば、上体を起こしたなまえと視線がぶつかって、けれど彼女は、自分がどうしてそうしたのかわからないとでも言いたげな、不思議そうな表情をしていた。 そんななまえの様子に、俺は何とも言えない違和感を覚える。「ああ、わかった。ここにいるよ」。それでも、不安なのだろうと結論付けて、少しでも安心できるようにと、すぐさま伏せられたその顔を覗き込む。「けど、大丈夫か? 頭打ったんだろ?」。けれど、うつむけられた視線も両てのひらに覆い隠されて見えなくなる。 「……よく覚えてない」 絞り出すようなか細い声。 ぼんやりとした違和感が、はっきりとした嫌な予感にシフトする。 「なまえ?」。呼んでも返事はなかった。「なまえ、」。もう一度繰り返してもそれは変わらず、その華奢な肩に触れてようやくなまえは顔を上げ、 「ねえ、ここどこ? わかんない、だれ、あなたは……わたしは、」 (……おいおい、まさか。嘘だろ、) いつもが終わった瞬間それが世界が滅んだ瞬間 だ title:選択式御題 20110416 |