※1st以前


「誕生日おめでとう、アレルヤ!」

 そんな風な弾んだ声と一緒に、なまえは少しだけいびつなケーキ(多分、なまえの手作りだ)を差し出した。「なまえ?」。それを受け取ることもできずに、僕はただ呆然と彼女の名前を呟いた。
 確かになまえは僕の名前を呼んだし、ここは僕に与えられた部屋で、僕となまえ以外には誰もいない。それでも、僕にはどうしても、それが僕のために用意されたものだという実感が沸かなかったのだ。
 僕は誕生日を祝うという行為をしたことがなかったし、そもそも、その誕生日自体、知ったのはごく最近――ソレスタルビーイングに入ってからのことだ。聞かされたときだって、特にこれといった感慨もなくただ知識として記憶しただけ。その日付が特別なものだとは思えなかった。

「アレルヤ知ってた? 誕生日って、こうやってケーキにロウソクを立ててお祝いするんだって」

 けれどなまえは、そんな僕に構うことなく部屋に上がり込み、嬉々としてケーキにロウソクを突き立て始める。「それで、わざわざ僕のために?」。僕は確認せずにはいられなかった。「そうだよー?」。ロウソクに火を点けて電気を消して、そして、なまえは何でもないことみたいに答えた。「だって、アレルヤがここにいてくれること、わたしすごくうれしいから」。
 その瞬間、鼻の奥がツンとして、胸が苦しくなって、僕の視界は少し歪んだ(……暗くてよかった)。

「……ありがとう、なまえ」
「ふふ、どういたしまして」

 ロウソクの灯りだけが揺れる暗闇の中、そう言って笑うなまえは、僕が知っている他の何よりもきれいだった。

***

「……あ、そうだ。ハレルヤも今日が誕生日なのかな」

 見た目こそちょっと微妙なものの、我ながら味はそう悪くないケーキをアレルヤと二人でつつきながら、ふと、疑問に思ったことをそのまま口にする。
 けど、こればっかりは直接ハレルヤに訊いてみないとわからない。とは言え、ハレルヤはわたしが呼んだって応えてくれないから、アレルヤに訊いてもらおうか。
 そんな結論に至って、わたしは顔を上げた。

***

「ね、あ……れ、?」

 誕生日を祝われたぐれーで感極まったアレルヤの感情が嫌になるほど伝わってくる。それだけでも十分鬱陶しいっつーのに、この女の下らねー発言の所為でアレルヤが更にうるさい。苛々する。
 俺は目の前の女に直接文句をぶちまけてやろうと、アレルヤを押しのけて浮上する。すると、「ハレルヤ!」。唐突に顔を上げたなまえは、目が合うなり馬鹿みたいに嬉しそうな顔をした。

「何へらへらしてやがる」
「だって、あんまり出てきてくれないからうれしくて」

 俺はテメーになんざ会いたかねーとか、胸中には即座に悪態が浮かぶ。けど、「あ!」。それを吐き出す前に、なまえがムダにでけー声を上げた。コイツはコイツでうるせえ。

「ねえ、ハレルヤの誕生日っていつ?」
「知るか。どうだっていいだろそんなこと」
「ああでも、きっとハレルヤは、アレルヤが生まれたときからずっと一緒にいたんだよね。ってことは、やっぱり今日でいいのかな」
「はァ?」

 いっそ清々しいくらい聞いてねーなこの女。
 大体、生まれた日なんかに意味があるとは思えねー。俺はアレルヤの弱さが生み出した人格であって、マトモな人間とは訳が違う。それでも俺は生きていて、その事実を他人なんざに左右されたくねーってそれだけだ。

「アレルヤだけじゃないよ。わたしは、ハレルヤがここにいてくれることだって、すごくうれしい」

 それなのに、コイツは平気な顔をしてそんなことを言いやがる。そのあまりにもおめでたい発想に、文句を言う気力すら削がれたのは確かだった。


(生まれてきてくれてありがとう)(あなた達が存在するこの世界に感謝を!)



感謝と祝福をあなたに 口付けを
title:選択式御題
20110227(ハッピーバースデー!)
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