※ヒロイン→ニール


 名前なんてただの記号だとは言え(しかもコードネームともなれば尚更だ)、わたしにとって『ロックオン・ストラトス』という名前は、紛れもなくあのひとだけを指し示すものだった。たとえあのひとの弟だという彼にその名前が引き継がれようとも、わたしの『ロックオン・ストラトス』は未だ以てあのひとただ一人だけ。
 もしかしたら、あのひと以外を指してその名前を使うことなんて、わたしにはできないんじゃないかとも危惧していたのだけれど。「ロックオン、」。案外、口に出してみると、その名前を呼ぶわたしの声は感傷の欠片もなくあまりに冷静で、それから無機的だった。
 そして彼は、あのひとと同じその名前を呼ばれて振り返る。「ああ、えーと……なまえ?」。あのひとと同じ顔で笑い、あのひとと同じ声でわたしの名前を呼ぶ別人。初めて顔を合わせたときにはひどく驚かされた。嗚呼、なんて精緻なレプリカだろう、と。

「しばらくハロを貸してもらえるかしら」

 そのひとの足元に転がるオレンジ色のハロを指して言えば、彼が答えるよりも先に、「なまえ、なまえ」。オレンジちゃんがわたしの名前を呼んで、足元へとやってくる。「ケルディムを少し調整したいの。ちょっとだけ付き合ってね」。そんなオレンジちゃんを拾い上げながらわたしは言って、もう一度、彼へと視線を戻す。

「そういう訳なんだけど……何か要望があれば言ってちょうだい」
「いや、君に任せるよ」

 極めて事務的に投げかけたその言葉に、あのひとと同じ言葉が返される。「全部お前さんに任せるよ。頼りにしてるぜ?」。デュナメスを整備するわたしにあのひとはそう言って、それから、頭を撫でてくれるのが常だった。
 けれど、目の前のこのひとはわたしに触れない。わたしと彼は、そこまで親密な関係ではないから。どんなに外見が似ていたって、彼はあのひとではないから。それは当然と言えば当然で、頭ではわかっていた筈なのだ。けれどその当たり前のことを、わたしは今ようやく、事実として受け入れられた気がした。

「どうかしたか?」
「……いいえ、?」

 突然黙り込んでしまったわたしを怪訝に思ったのか、ロックオンが顔を覗き込んでくる。慌てて顔を上げると、今度は彼が少しだけ驚いたように瞳を瞬いた。その意味がわからなくて首を傾げると、「ああ、いや、初めてまともに目が合ったなと思ってさ」。
 わたしはゆっくりと瞳を瞬く。まっすぐ見上げた先には、底の見えない美しいセルリアンブルー。言われてみれば確かに、無意識に、このひとの瞳を直視することを避けていたかもしれない。この色は何よりもあのひとを想起させる。わたしはあのひとのその瞳が、特別すきだった、から。


(目の前のこのひとの存在を認めることで、わたしはもう一度あのひとが死んでしまう気がしていた)(けれど、そうではない)
(いつまでも美しい記憶の中のあなたと、わたしは生きていく)



いつか貴方の全てを想い出に変えてしまえますように
title:リライト
20110222
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