梢の香りが心地よい暖かな昼下がり、ひなたぼっこには最適な日だろうと思うくらい眠気を誘う過ごしやすさである
新緑に輝く梢が風に揺れ、音をたてる
土方の目の前には平原に横たわり、すぅ、と深い静かな寝息をたてる千鶴、そのすぐ傍には何故か野良猫
(…千鶴の奴、心細くて野良猫と戯れていたら寝ちまった、ってところだな)
こんなに春らしい陽気な日なのだから、と土方は朝から句を詠みに行こうと一人出かけていて、昼過ぎに帰ってみたら春の花のように草に囲まれる千鶴と猫の姿
(…全く本当、仕方ねえ奴だな)
彼女の穏やかに眠る顔を見て思わず頬が緩む
撫でようと彼女の髪に触れようとした瞬間、千鶴の傍に寝転んでいる野良猫がバリッと鋭く土方の手を引っ掻く
「…ってぇ……なんだ、お前、こいつが気に入ったのか?」
にゃー、と猫は少し威嚇するように土方を見る
「猫のわりには威勢が良いじゃねえか」
だが少しの威嚇など土方に、そんなものは全く通用せず口角を上げて勝ち誇った表情で
「だが悪いな、こいつの隣は俺じゃないと駄目なんだよ、たとえそれが猫でも譲らねえよ」
そう言って、ひょい、とジタバタ暴れる猫を抱え、退ける
そして土方も平原に腰を下ろし千鶴の傍に寝転がる、そっと頭を撫で、漆黒の髪が太陽の光に照らされて色が透き通る、平原の草花が揺れる優しい音に包まれた静かな刻
目の先には心地よく眠る彼女

「…たまには何も意味も無く寝転がって過ごすのも悪くねえな」
語りかけるように優しく、囁く
「これからも俺のそばにいろ、逃げようとしても離さねえから覚悟しとけ」
(…って、あの時にも言ったな…)
必死に自分の後を追いかけてきた彼女の姿が脳裏に浮かぶ
穏やかな声が言葉を紡いで、桜吹雪と共に風に吹き抜けていく
彼女は知らない、彼との昼下がり
彼女が目を覚ますと、すぐ隣で眠る彼に驚き、慌てふためく表情を頭に思い浮かると、可笑しくて、けれど愛しく感じる自分がいて
優しい微笑をたたえ、彼も瞼をゆっくりと閉じた




 

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