※土方さんが軍人パロ



冬枯れの地、冷たい風が、ざああ、と吹く音が胸のざわめきを表してるようで妙に胸心地が悪い
そうして沈痛な表情を浮かべながら千鶴は唇を開いた
「…本当に行ってしまわれるのですね」
「ああ、これは国からの命令だからな」
そうですか、と千鶴は唇を噛む
目の前に立つ彼は黒い軍服を纏う、それは見惚れてしまうほどに綺麗で綺麗で、
「…いつ、戻られるのですか?」
我ながら無理な質問だ、と思いながらも震えた声で問う
その問いに彼は柳眉を歪めて眉間に皺を寄せる
「…分からない、戦いが終われば、……」
「……っどうして…」
どうしてただ一言、"戻る"と言ってくれないんですか、と聞こうとした開いた口が自らの感情が邪魔をして喉の奥で、つっかえる
土方は千鶴、と呼ぶと自らの軍服の第2ボタンを引きちぎり彼女の冷えきった手をとり、ボタンを握らせる

戦時中、大事な人へ形見として軍服の第2ボタンを渡す風習があるこの時代、彼の行為は悪い思考にしか傾かない
「…っ!嫌ですっ…!いりませ、んっ私は歳ぞ─」
私は歳三さんが傍に居てくれたら、そんな言葉さえも言わせてくれないなんて何て彼は狡いのだ
渡されたボタンの意味を理解し、必死に拒絶の言葉を紡ぐ千鶴の口に言葉を封じるかのように自らの唇を重ねる
「…お前に持っていて欲しい」
そう言って千鶴の頬を撫でる手は微かに震えていて、
きっとそれは寒さのせいでは無いだろう
静かに千鶴の頬から手は離れ、踵を返し歩き出す
「…歳三さん、歳三さん、歳三さ、ん」
それでも彼は進める足を止めない
離れた唇は未だ熱を帯びて残る熱が切なさを増してキリキリと胸を締め付ける
祈るように、ぎゅっ、と爪が食い込む程キツくキツくボタンを握った

 
(そんな言葉さえも届かないというのに)


 
*****
戦時中、大事な人へ形見として軍服の第2ボタンを渡す風習があったそうで、その名残で卒業式に第2ボタンを貰うということに繋がったとかいう話があるそうです


 
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