同じ元帥の一人、フロワが私の元に連れてきた子供。どういうつもりで置いていったのかは知らないが、この子供は先程から一言も喋らない。
「…神田ユウ、か」
クラウドは思案気に言い慣れない東洋の名前を口にした。
神田ユウ、それがこの子の名前だよとフロワが言っていた。クラウドはじっと床の一点を見つめて動かない神田をひょいと抱き上げると椅子に座らせる。
妙齢の女性であるクラウドにすら抱えられるほど神田の身体は軽かった。
「神田、菓子でも食べるか?…というか食え」
神田は何も言わない。クラウドの肩でラウ・シーミンもキキッと促すように鳴く。それでも神田は何のアクションも取らなかった。
ついに痺れを切らしたクラウドは強引に神田の顎を掴むと自分のほうを向かせる。
「食べるということは生きるということだ。お前もこの世に生を享けたからにはその義務がある。…神田、お前は世界に歓迎されていることがわからないのか」
小さな子供の長い黒い前髪の間から一滴、涙が零れる。
わからない、と神田は初めてクラウドの前で声を発する。彼女は神田の顎から指を離し端正な顔を歪めて、思った。
(神田、お前もいつかこの世界に生まれたことを言祝がれる日が来る)
いつかに誰かが言った台詞をあたしも喉のどこかで呟く