香水の日




=ダークグレイッシュside=


1万2千円の香水を買った。
俺はなんて馬鹿な奴なんだろうと自分を笑った。
それが幸せだった。

何の迷いもなく俺は一件のコーヒー屋さんを目指す。
そこには幼馴染のダークが働いている。
同い年なのに俺よりもずっと大人な彼がいる。
本当、大人で何でも出来る奴がむかついてしかたない。
だから、俺は、彼を傷つけて、しまいたい衝動に駆られている。

たとえどんなに円熟した思考をしていても、コーヒーの神様だとか崇められても、所詮俺と同い年なのだ。きっと正体は情けない。そう思った。

それがオレオレ詐欺の始まりだった。
いつもあいつの携帯電話に公衆電話からかける。
奴は俺を誰と間違っているのかはわからないが、親身に話を聞いて、簡単に騙されて貯金を全て払いこんでくれる。
それもまた気に食わない。

「気付くだろ…普通…」

幼馴染の声が電話越しにしているんだぞ。
わかるだろう、俺だって。
困っているっていう内容だって、ちぐはぐだってこと。
あーあー、馬鹿らしい。
考えるのやめる。

「お疲れ様」

「え?」

ダークの仕事が終わるのを待っていた俺に、奴は驚いた顔をした。
そんな、意外そうな顔しなくてもいいじゃん。本当。

「待っていてくれたの?」

「そうだよ、待っていたんだよ。用があってさ」

「俺に?」

何の用があるのか、と聞きたそうな顔をする。
気に食わない。
気に食わない。
用ってさ、何?
なんだったら、俺は胸を張ってアンタに会いに来ていいんだよ。

「あーなんだ、これ、使えよ」

惜しげもなく、俺は1万2千円した香水をダークに振りかける。
奴は突然のことに少し腰を引いたが、すぐに「いい匂いだね」と大人らしく笑った。

「ちっ」

舌打ちをして、俺は香水をダークに投げる。

「やる」

「えー、悪いよ」

「悪くない。俺がやると言ったんだ。もらっとけ」

「うーん、じゃあ…」

「……ちっ」

また舌打ち。
俺って、ガキだよな、本当。
同い年なのに、幼馴染なのに、どうして、こんなにも違うのだろう、俺たちは。

「うん、やっぱりいい匂い」

香水を手にダークは微笑んだ。
さっきの生返事みたいな反応とは打って変わって、嬉しそうに。
とっても、嬉しそうな、顔で。

「あー、家に帰ってから渡せばよかった」

「ダークグレイッシュ、俺はべつに」

「違う、お前のそのたるんだ顔を俺の横に並べて町をあるくのが嫌だ。最悪だ」

「じゃあ、離れていいよ」

「は…?」

「俺は一人でニヤニヤしている怪しい人って周りから思われてもいいし、ダークグレイッシュを巻き込んだら可哀相だし、他人のフリ…」

「…………そういう意味じゃない」

「どういう意味?」

「わからなくていい。ただ、ただ、今度から俺と会う時は、この香水つけてこい!」

「うん、いいけど?」

俺、いつも臭い?と言いたげな顔をしてダークは俺を見た。
だから、俺は「コーヒー臭い」と言った。

「しかたないよ、職業だし」

「……しかたなくない」

「そうかな…」

しかたなくないのか…とダークは考え出してしまった。
どうしてわかってくれないのかな。
俺は、

「そうだよ、変わらないで欲しい」

「え?」

「俺の知っていた幼馴染のお前は、馬鹿でお人よしで、運動神経抜群なのにドジだったり、してさ、コーヒーなんていれたこともなかった。大きくなったら、牛を育てて、牛乳作るんだろ?」

「昔の話だよ、それ」

懐かしいなとダークは笑う。
勝手に思い出にしてしまったダークは卑怯だと思う。
俺は、まだ、こんなに大きくなっても、ずっと、ずっと。

「あー、もう、今日は酒だ。酒を飲む!」

誕生日おめでとうって言えなかった、今日は、香水の日。




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