日本酒の日




=ディープside=


全くもって不愉快である。

知能の欠片もないのかと俺は言いたい。
飲んで忘れようなんて言葉自体が甘えで有って、侮辱だ。
俺は、そんなものは望んでいない。
俺が欲しいものはそう、完璧な回答。

完璧な回答だ。

「何、ぶっさいくな顔してんだよ、似合う」

日本酒を持ってきた酔っ払いは俺を見て笑った。
俺はどうやってこいつを追い返そうかと考えていた。

「もしかして、急に自宅を訪ねられて困ることでもあったのか?」

ギャハハと笑いながらダークグレイッシュは言う。
完全に酔っぱらってしまっている。どうしようもない。
深い溜息とともに頭を抱えると、彼は少し真剣な顔をして日本酒の瓶をふり回した。
危ない。

「考えたってさ、どうにもならないことは、たくさんあるんだ。考えたって無駄だ。馬鹿なだけなのさ!」

「……そんなこと言っていたら堕落する一方だ」

耐えきれず、俺は言ってしまった。
しまったと思った。
感情的になるなんて、俺らしくない。

「おーでたでた本音が出ました!」

「酔っ払いは帰ってくれ」

「酔っ払いじゃないから、帰らなーい」

「酒臭い、テンションおかしい、お前はもう酔っ払いだ」

「いやぁん。俺、酔っ払いのレッテル貼られちゃった」

「……静かにしてくれ」

俺は静かに考えたかった。
どうして、今日は…

「いやだいやだ、いやだ」

ジタバタと暴れ出した成人男性を俺は睨む。
疲れたわ。もう。

「ディープは考えすぎなんだ。考えすぎると、駄目なんだ!」

「……え?」

「俺、今日、びっくりあるってばニュースを見たんだ。考えすぎると人は禿げるって言っていた。禿げるんだぞ。髪の毛なくなるんだぞ。そうしたら、お前はまたそれについて考えて、また禿げて、また禿げた理由考えて、またさらに禿げて、無限ループだよ、そんなの、嫌じゃん」

「ダークグレイッシュ…」

ありがとうは言えなかった。でもお酒は頂いた。
たまにはこんな日もあってもいいのかもしれないよな。
そう今日は日本酒の日。




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