招き猫の日
=ホワイトside=
俺は完璧な存在でありたい。
だから、余計なものは持たない主義だ。
なのに……
「あの、これ」
急に押し付けられた招き猫を抱えて、俺は困惑した。
成人男性の頭二つ分くらいの大きさのそれは結構重たい。
夕焼けを眺めながら、散歩をしていた俺に、招き猫を押し付けたビビットは、何をあたり前のことを聞くんだとでも言いたげに「それは招き猫だ」と答えてくれた。
うーん、と、そこじゃないんだけど。
半分頭をひねりながら、俯くと、キッと睨まれた。
いや、彼の顔見てないけど、明らかに睨まれたってわかった。
「なんか、文句でもあるのかよ!」
「い、いいえ、別に」
「だったら、それ、部屋に飾っとけ」
「は、い」
「迷惑か?」
「いえ、そんな、そんな迷惑だなんて…」
「なら、よかった。出来るだけ、出入り口に近い所にしろよな」
「は、い…」
「じゃあ、俺はこれで。用事があるからな、うん」
乱雑に手を振って、ビビットは走り出してしまった。
でも、ビビットが走り出した方向は行き止まりだ。
何か行き止まりにでも用事があるのだろうか。
追いかけて行って、そっちは行き止まりだと教えてあげようかとも思ったけども、本当に行き止まりに用事があるなら、邪魔になるし、いいよね、うん、と俺は自分を正当化して、重たい招き猫と自宅を目指した。
「でも、どうして…」
嫌がらせだろうか。
急にこんなものを押し付けて。
ビビットはいつも怖い。
怒ってばかりいるし、言葉使いはきついし。
でも、嫌いじゃ…ないんだよな。
「不思議…」
こんな大きくて邪魔にしかならなさそうな、招き猫を部屋の出入り口近くにどうやって置くかを考えている。
俺の部屋は必要最低限のものしか置いていないのに。
明らかにいらないだろう、これを。
どうしたんだろう。
俺、どうしたんだろう。
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