私が思い描いた世界
=ブラックside=
小さい頃は色んな事を望んだものです。
大きくなったら、あれが欲しいとか、あれになりたいだとか。
何も知らなかったから純粋に願って憧れて手を伸ばしたものです。
今となっては全て、痛々しい思い出でしかありませんが。
*****
シンと静まり返ったオフィスで私は残業をしていました。
こう見えても私、それなりにここで働いていますから、戸締りを任された一人残業です。
「ちゃんとご飯食べてくれましたでしょうか…」
少し家のことが心配になり、私は電話を一本いれてみます。
すると、珍しく電話にはホワイトが出ました。
以前は電話が鳴る度に、びくびくしていたあの子にしたら、何か心境の変化でも訪れたのではないかと私は少し微笑んでしまいます。
「大丈夫だ。俺が、作った」
こっちが本題を言う前に、ホワイトは自信満々に言います。
なんだか、癒されてしまいますね。
「作って下さったのですね、ありがとうございます」
「別に。ブラック、仕事頑張れ」
「ええ、頑張りますね」
「おう」
じゃあ、と切れた電話に、私は物事が上手く進んでいるような幸福感をおぼえました。
*****
「?」
私しかいないはずのオフィスに何やら、人の気配を感じます。
私は怖くなって、椅子から立ちあげると、あたりをきょろきょろと見渡しました。武器になりそうなものなんて、掃除道具のホウキくらいしか思いつきません。
「うわぁ。まだ人がいた!」
「!?」
ホウキを武器にしようと頑張って掃除道具箱の扉を開けようとした私に明るい少年の声が聞こえてきました。嫌ですよ、少年の幽霊さんとか…本当にやめて下さいよ、と心の中で唱えながら、私は振り返ります。
そこには金髪の綺麗な髪の毛の少年がいました。とても可愛らしい顔をしていて、私はさっきまでの幽霊じゃ…という可能性を捨てることができました。
「あの、道に迷っただけなんです」
少年はカメラを首から下げてバツが悪そうに微笑みました。
幼い頃の私に似ているような気がして変な親近感を……
「でも、オジサンに会えてよかったです。出口はどこですか?」
「……オジサン、ですか?」
「わ、すみません。お、お兄さん、です、よね?」
「いえいえ、オジサンですよ。ただ、私、背も低いし、威厳のある顔もしていないから、そのように身分相応に扱って頂けると嬉しいものがあります。オジサンとよかったら、呼び続けて下さいね」
「あ、はい。わかりました。で、あの、出口は?」
「ああ、そうでしたね。出口は、あっちです」
「ありがとうございます」
それではと、少年は手を振って走り出してしまいました。
なんだか一人に戻って寂しいような…
「まさか」
寂しいだなんておかしいですね。
私は、あるがままを受け入れて生きているのに。
そのあるがままに意見を持ち出すだなんて。
おこがましい。
平常心を取り戻して椅子に座り直すと私は仕事に取り掛かりました。
すると、さっきの少年が戻ってきました。
「あの、暗くて怖いから、オジサンが仕事終わるまで、一緒に待ってていい?」
「ええ。私も一人は怖いと思っていたところなのですよ」
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