完璧
=ホワイトside=
俺の世界にビビッドという侵入者が現れた。
奴は、俺の意志など聞きもしないで、俺の色を塗り替えてしまう。
俺はそれが怖くてしかたない。
だけど、一人、部屋に閉じこもると、途端に恋しくなる。
おかしいだろう。俺、おかしいだろ。
全然、こんなの完璧な俺じゃない。
ただの馬鹿野郎だ。
会いたいだなんて。
もっと話がしたいだなんて。
「…………」
感情なんて持っていたって仕方ないのに。
ない方が完璧っぽいのに。
捨てたはずのものがどうして今さら俺の中に現れる?
どうしたらいい?
俺は今さら無感動をやめるのが怖いぞ。
演技でもいいか? 続けていてもいいか?
じゃないと俺はまた自分の感情に押しつぶされて惨めになるだろう。
よし、また捨てよう。そうしたら、元通り。
「…………いや」
捨てきれない。捨てたくない。
ビビッドの思い出もそうだけど、ペールやブラックやライトグレーや珈琲の神様や、いろんな人のこと、俺は好きだから。
だから、どうしたらいいのか、またわからなくなる。そんな繰り返し。
『ビビッドくんはホワイトが一生懸命になって意見を口にしたら、きっとホワイトがビックリするほど真剣になって聞いてくれると思いますよ』
ふとそんな言葉を思い出して、俺はビビッドを訪ねた。
奴は俺の顔を見るなり、かなり驚いた顔をしている。
が、すごく嬉しそうな笑顔で……。
はじめて見たかもしれない。
ビビッドのこんな顔。
俺の知らないことがやっぱり世界には溢れているんだ。
それがとても怖い。
「どうしたんだよ」
ぶっきらぼうにビビッドは言う。どうしよう、今さら、怖くなってきてしまった。ブラックがあんなことを言うから、うっかりビビッドに会いにきてしまったが、どう考えたって、迷惑だっただろう。
「……怖がるなよ。別に、俺、緊張しているだけで、お前のこと怒ってないし」
「え?」
「さっさと要件を言え!」
「あ、大したことじゃなんだけどさ」
「いや、大したことだろう。お前が俺のところにこうしてくるくらいなんだしさ」
「…………」
つまらないことできてしまっている。俺はそう思うと怖くなって、言葉が出なくなった。ビビッドはそんな俺を見てイライラしている。
「おい」
「ご、ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ」
「だって、怒ってるから」
「確かに怒っているけど、お前に怒っているんじゃない」
「?」
「情けねぇ。優しくしたいのに、できないんだから、嫌われてさ」
「……え、俺は、嫌ってない」
「嘘だろ?」
「俺は嘘なんて吐かないぞ」
「じゃあ、なんで俺のこと避けてたんだよ。あからさまだったぞ」
「……………」
「黙るな、思ったこと話せ。俺相手に余計なことを考えるな」
「ビビッド」
「可愛い顔もするな、あと俺の名前をお前はあまり気安く呼んじゃいけねぇ」
「なんで…?」
「それはおいおいいつかは教えてやるからさ。今はお前が此処に来た理由とやらを話せ」
「俺、完璧だから」
「あ、まぁいつも言ってるけどな、それは」
「だから、完璧で有りたいから、余計なものは持たない主義で。望まないことが一番平和だった。でも俺、ビビッドに会ってから、また、少しずつ俺の世界に色が生まれた。それが、怖いんだ」
まっさらな自分のままでいたい。
誰からも染められず、非難されない。
「それは悪かった。怖がらせたかったわけじゃねぇんだよ」
「違う、責めていない。俺は、その、怖いけど、楽しい。今が楽しい。逃げ出したいけど、大切にしたい」
「スカートをやめるっていうのか?」
「それとこれとは別だ」
「そうか」
「そうだ。スカートとかじゃなくて、俺はビビッドとお友達に、なりたい!」
「もう、友達だと俺は思っていたが」
「え?」
やばい、俺、どうしてだろう、涙がとまらない。困らせてすまん、ビビッド。
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