他人のゆび(10年後円豪)
2011/01/12 22:11





カラカラと氷が鳴る。背の低いロックグラスに注がれた焼酎は甘く、豪炎寺の口には合わなかった。しかし円堂には好みの味らしく、先程から何度もグラスを空にしてはまた新しく酒を注いでいた。
店内に流れる有線の音楽が微かに耳に入り、円堂は曲のメロディーに沿って途切れ途切れに鼻唄を漏らす。豪炎寺の知らないものだ。

「いいよなー、この曲」

「いや、知らない」

だろうな、と円堂は苦笑しつつ酒を仰ぐ。
カツン、円堂の左手薬指に嵌められたシルバーリングがグラスと接触し、冷めた音をたてた。その硬質な音が響く度、豪炎寺はほんの僅かに眉を潜める。

「最近の流行りが分からないんだ」

「あー、仕事忙しそうだしな」

「まあ、な。でも苦では無いんだ」

「そっか」

グラスを傾ければ、とろりとした酒が口内に流れ込んでくる。甘さが舌に纏わりつく感覚、やはり好みではないと豪炎寺は手の拳で口を拭う。
キラリ、円堂と同じ箇所に嵌められた豪炎寺のリングが、照明の灯りを反射して輝いた。鋭い光が視界の端にちらつき、円堂は弱く唇を噛んだ。

「俺が好きな曲は、豪炎寺も絶対に知ってたのになー」

「昔の話だろ。それに知ってた訳じゃない、お前が隣で何度も何度も繰り返し歌うから、自然と覚えてただけだ」

円堂のグラスがまた空に戻り、瓶から新たに酒を注ぐが、それはグラスの真ん中程までを埋めて尽きた。あ、と円堂は小さく声を漏らしながら、静かに笑みを溢す豪炎寺を見詰める。

「あれ? そーだっけ」

とぼける円堂の姿に、豪炎寺は一層笑みを濃くするが、そのすぐ後にカツン、と音が響く。手で面を覆い声を殺して笑っていた豪炎寺の眉は、潜められる。
つられて笑っていた円堂の視界の端にもまたキラリ、と光がちらつく。笑う声は少しずつ消え、唇は緩く噛み締められてしまう。

「懐かしいなー」

「ああ」

互いの視線が左手の薬指に向けられ、直ぐに逸れる。二人のリングのデザインは、全く異なっていた。
円堂はまた店内BGMのメロディーに声を乗せて歌い、豪炎寺はその声に耳を傾け。
それは昔の光景に、よく似ていた。








……………

10年後の円堂さんが既婚者と聞いて。
ちょっと暗いお話になってしまいましたね。豪炎寺さんもきっとかわいいお嫁さんを貰っていることなのでしょう……。そんな中まだお互いに未練がある円豪かわいいな、とツイッターでハッスルしたわけでした。



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