○○依存症
「まーた、そんなもの吸ってんのかよい」
夜も更けこみ始めたある日。
春夜はコソコソと船の裏手で煙草を吹かしていたのだが、その理由でもある人物に早々と見咎められてしまった。
「口寂しくてな」
肺に溜まった煙を吐き出しながら苦笑する彼女を睨みながら、マルコは煙草を取り上げようと近付く。
だが、
「たまにはいいだろ?嗜好品だ」
その手を軽やかに躱しながら、春夜は見せ付けるように大きくまた煙草を吸い込んだ。
「はあ〜…。少しは医者の立場である俺の言うことも聞いてくれよい」
「人の楽しみを取り上げるアンタの言葉をか?」
冗談、と笑い飛ばす春夜を見てとったマルコは早々に説得を諦めてしまった。
「何でそんなもん吸いたがるかねェ」
ニコチン中毒でもあるまいし。
なのに、どうして彼女は煙草をそんなに吸いたがるのか。
そう疑問に思っていると、春夜は嗜んでいた煙草を指で弄びながら理由を告げた。
「元々、煙管は愛煙していたさ。ただ、海の上にずっといてると煙草葉が中々手に入らなくてな。そうしたら自然と紙巻き煙草の方を、な?」
「な?…じゃねェよい!」
そして案外下らない理由であったことにマルコは呆れ返る。
全く、真剣に聞いてたこちらが馬鹿みたいだ。
「ハハッ。そういうマルコにはないのか?それ無しでは生きられないものっていうのは」
思わず溜め息を零した彼になどお構いなしに、春夜はマルコに尋ねた。
私は煙草かもしれないが、お前はどうなんだ? と。
「‥‥お前には言わねェよい」
けれどマルコは答えようとはしなかった。
「そうかい」
あまり興味もなかったし、この話はこれで終わりだろうと春夜は思ったがマルコは更に追求してくる。
「気にならねェのかよい」
どこか苛立った様子で。
「言いたくないんだろ?なら無理に聞き出すなんてしないさ」
そんな彼に気付きながらも、ジジ…と葉が焼ける音に急かされて、春夜は再び煙草を口に運ぼうとした。
その手を、
── ぱし ──
マルコに掴まれて止められてしまう。
なんだ?
春夜は視線だけを寄越して問うてみたが、彼は何も答えない。
それ所か、
自分の顔をこちらへと傾けてきたのだ。
ゆっくりと、けれど確実に。
それがどういう意図なのか分からない程、春夜は初な小娘ではないつもりだった。
「…マルコ」
「少し黙ってろい」
有無を言わさないマルコのその息遣いが肌で感じられる。
二人の距離が縮まっている証拠だ。
お互いの唇が触れ合いそうになった。
その時、
「っ…」
「……」
春夜は持っていた煙草をマルコの口の隙間に滑り込ませた。
「マルコ…、私はアンタとそんな関係を築くつもりは毛頭ないよ」
私達は白ひげ海賊団の船員同士であって、それ以上でも以下でもない。
春夜が微笑みながら、そうあしらえば、
「……そうかよい」
マルコは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
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春夜は煙草依存症。
マルコは春夜依存症。
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