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二人の邂逅



昨日とそう代わり映えのない青空の下、春夜は徐に鍛練を始め出す──。
まずは腕や足を屈伸させ、それから甲板に温まった両手を突けた。

「…よっ」

掛け声を発した勢いで、倒立。両足を天に向かって真っ直ぐに伸ばしながら、不意にマルコがこの間、新しい船員が加わるかもしれないと口にしていたことを思い出した。
まあ、うちは船長があんな人だから、乗組員は増えていく一方なんだけど。
対して珍しくもない情報を頭から追い出し、春夜は、くるんと後ろに倒れる反動を利用して足を地面に着地させた。
今日は有難いことに海も穏やか。獲物を仕留めるのに苦労することもないだろう。





「くっそ、あの野郎…」

今日も白ひげの首を狙って返り討ちにあってきたエースは、ここの奴らと顔を突き合わせてるのは御免だと人のいない場所を探して甲板に出てきた所だった。
白ひげに喧嘩を売ったあの日からすでに数ヶ月が経過していた。もう自分の船の形や船内に漂っていた生活臭を思い出そうとしても朧気になってきている。
早くアイツを殺って、一緒にこの船に連れて来られた仲間達と共に、スペード海賊団の船へ戻らねぇと。
そんな焦燥感に駆られていると、ふとエースの視界に妙なものが映り込んだ。

「あ?」

そこは船尾の左舷に位置する場所で、朝の早い今の時間では誰も足を運ばない所の筈なのだが、今日は何故かキチンと畳みこまれた衣服が横に置かれていた。
形は独特なもので、確かワノ国の衣装だったように思う。そしてその横にはこれまたキチンと揃えた靴と鍔の無い変わった形をした刀が手すりに立て掛けられていた。

「何だ?誰か身投げでもしたの、くぁあぁああっ!?」

羽織を手に取って首を傾げていたエースは突然、ザバァッと濡れ鼠になった人間が目の前に現れて、口から心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。

「な、ななっ…な!?」
「ん?ああ、おはよう」
「おはよう。…じゃねェ!何脅かしやがる!!」

当の彼女はエースを視界に入れた途端、爽やかな挨拶をしてきたものだからエースも思わず挨拶し返してしまった。
どうやら羽織や刀の持ち主はこの女の物らしい。一見すると老人に見間違いそうな真っ白な髪から水滴を滴らせながら、立て掛けてあった刀を腰に差している。

「別に脅かしたつもりはないさ。海から上がったら、ちょうどアンタがいたんだよ」

そう言って血のように赤い目を呑気に細めた彼女は、徐に持っていた縄をエースに寄越した。

「悪いけどこれ、引っ張ってくれるか?」
「はぁ? って、うお!?」

ついついロープを受け取ってしまったエースだが、手に取った瞬間に襲いかかった思いもしない引力に又もや面食らった。
先端に何かを縛り付けているんだろうか、かなりの重量で足に力を込めないと海に引き摺りこまれそうだ。

「アッハハ。言っとくが、それを逃がしたら今日の夕飯はないからな」
「な、にいって…──くっそおぉおおぁ!!」

何がなんだかよく分からないが、飯がなくなると聞いて見す見す手を離すようなエースではない。
ありったけの力を込めて縄を一本背負いの要領で引き揚げると、海面に全長数十メートルはあろうかという程の大きな魚が姿を現した。

「ハアハアハア、…魚?」

その予想を超える大きさにエースが呆気に取られていると、慌てたような足音がいくつか船内から聞こえてきた。
それはエースが今会いたくないと思っていた白ひげ海賊団の船員で、皆嬉々とした表情を浮かべてこちらに近付いてくる。

「春夜さーん!どうです?良いのは獲れましたか?」
「ああ」
「‥‥春夜?」

誰だそれ、と首を傾げる彼のことなどお構いなしにエースの視界の端で、こりゃすげぇ、何人分あるだろうな?と浮かれ騒ぐ船員達。
どうやら彼女はここの船員らしく、不本意にも馴れ合ってしまったことに苛立ちを覚えた。

「いや〜、さすが副船長ですね。俺達じゃこんな大物──」
「副船長だァ?!」

そう感じていた矢先、思ってもいなかったカミングアウトによりエースはその目を限界までかっ開いた。
この女が副船長?いやいや、百歩譲ってここの船員だと認めてもいいが、副船長はないだろ。

「ありえねェ」

思わず口をついて出た言葉でその場にいた連中の不興を買ってしまったが、春夜だけは自分の事だというのに豪快に笑っていた。

「アッハハハ。よく言われるよ」

そうして改めてこちらに向かい合った彼女は、口角を上げて不敵に微笑む。

「よろしくな、"アウトロー"。また一緒に魚でも獲ろうじゃないか」

おれを無法者と罵りながら。



「アウトローじゃねェ!おれはエースだ!」
「ああ、"アウトロー"のエース君な」
「こんの〜…!!」





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