×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
01 取捨択一


刀。
それは人や物を切る刃物のこと。
短刀、大太刀、薙刀と、形は様々。
それらはいずれも精神と技をこめて造られており、長年の想いや願いが込められている。
その刀剣等を使って、あることを行うことが、政府から私へ与えられた任務だ。

「掛けまくも畏き大神、この神籬に天降りませと恐み恐みも白す」

心をまっさらにして、神降ろしの祝詞を告げる。
強く会いたい、と真摯に願いながら。
助けて下さい、と敬虔に祈りながら。
すると、それまでただの鋼だった目の前の刀剣が光り輝き、人の姿へ形取っていく。
神が顕現した、正に神々しき瞬間だった。
そんな彼等に、私は不遜にも願う。

「どうか、貴方の力を私達に貸してください」

手を差し伸べながら、
私達を助けてください、と。






政府から神降ろしの力を買われ、審神者になってから早数ヶ月。
やっていることと言えば、時間遡行軍との戦闘で得たデータのまとめや、生み出された刀剣男士達の経過報告などなどで、なんか科学者みたいな毎日だ。
まあ、他の審神者さん方が困らぬように、先陣切って情報収集してるんだから当たり前なんだけど。
ぶっちゃけとても忙しくて、毎日部屋に缶詰め状態な感じだ。
身の回りの世話も刀剣男士達に任せっきりで、敬うべき神様な筈なのに、すごい扱き使っちゃってて申し訳なく感じてます。

「せめて政府からもらってる報酬は、文明の利器を買うために使って、少しは楽させてあげないと!」

この間、トラクターを買って上げたから、これで畑当番の刀剣達には楽させて上げれたとして、次は何を買おうか…、と思案していると、ふすまの向こうから声がかかった。

「審神者殿!大変です!」
「こんのすけ?」

入出許可もそこそこに、慌てた様子で私の執務室兼自室に入ってきたのは、政府との連絡役を行ってくれているこんのすけだ。
見た目は二頭身程の可愛らしい狐なのだが、礼儀正しく、いざという時とても頼りになる、この本丸切ってのマスコットキャラクターだ。

「どうしたの?そんなに慌てて。定期連絡を入れに政府まで行ってくれてた筈じゃ…」
「それが、池田屋に時間遡行軍が!」
「!!」

こんのすけのもたらした言葉で、それまで和やかだった空気が、一変して緊迫したものへと変わる。
『時間遡行軍』とは、歴史修正主義者を名乗る者達が編成した一団だ。
歴史改編を目論み、様々な時代に送り込まれてくる彼等を阻止するため日夜活動しているのが、政府や私。そして付喪神として私が呼び起こした刀剣達だ。

「池田屋って、幕末で起こったあの池田屋事件?」
「はい!数は不明。ですが、場所が池田屋となると、相当な手練れかと思われます」
「幕末時代の調査はまだ完全には終わっていないのに…!」

ついついしかめっ面になってしまうのも栓無きこと。
あそこは未開の地で、近々斥候を放とうとしていた所なのだ。
それを今回、敵に先回りされてしまった。

「兎に角、種別の刀剣一振りずつを一団にして出陣させます。短刀、脇差、打刀、太刀に大太刀。今本丸にいる刀剣達の中で選りすぐりものを選出して…」

いや、池田屋となると場所は京都の筈。京の狭い通りで太刀や大太刀を振るえるものかどうか。
けど、短刀の子達ばかりのメンバーにすればパワー不足な気もする。
どうしようかと首を捻っていたが、今はその時間さえも惜しい。
ええい、と頭を振って、私は一度思考を空っぽにした。

「迷っていても仕方がない。取り敢えず、大太刀の石切丸を出陣させよう」

他は今の水準などを考慮して今剣、鯰尾、にっかりに向かってもらうことにする。
そこまではスラスラと思い付いたのだが、残り二振りの枠になって、特に隊長を誰にするかで一考を要してしまった。
あの池田屋事件を理解しつつ、時間遡行軍を退けるための布陣。
そこに重きを置いた刀と言えば――、

「清光…、それに安定を選出します」

池田屋に乗り込んだ新選組の先鋒は一番組組長の沖田総司だった。
その愛刀であった彼ら以外、これ以上の適任はないだろうと、私は結論付けた。
たが、その編成にこんのすけは納得がいかないようで、慌てて待ったをかけてきた。

「で、ですが、安定はこの間、人の形を成したばかりです!」

幾らなんでも早すぎます!と口出しをする補佐役。
けれど私は、それでもと思う。
何故ならその理由は、

「少しでも情報があった方がいいの。安定もあの時代の生まれなんだから、何か手助けになる筈!」

清光を信じていないから安定を選考するわけではない。
むしろ彼には信頼して任せられる。
そんな彼の背を安定にも追いかけて欲しい――。
そう思えば、隊長枠を誰にするかなど決まってしまった。

「えっ、安定を隊長に据えるのですか!?」

肩にぴょんっと乗りながら、無茶ですよ!と狼狽するこんのすけ。

「ええ。けれど安定には、なんだか未知の可能性を感じるの」

顕現した当初から、何だか不思議な気を持つ刀剣だった。
他の刀とは違う――。
だから今回も、何かを成し遂げてくれるんじゃないかと、そう感じたのだ。

「念のため、刀剣破壊が起こらないようにお守りを今から作るから、こんのすけはこの事を政府の人達に連絡して!」

そうとなれば善は急げと、祈祷に必要な千早と冠の身支度をする私に、こんのすけは深い溜め息を吐いた。

「分かりました。この本丸の主は貴方ですから指示に従いますよ」

半ばやけ気味に呟くと、こんのすけは身体を反転させて政府の所へパタパタと向かっていった。
こんのすけにはいつも何かと迷惑をかけてしまって申し訳ないと思う。
けれどこれも任務の為、多少の無茶も必要なのだ。
まあ、実際に戦地に赴くのは彼ら刀剣男士だけれども。
そんな彼らが少しでも傷を負わずに帰って来られるよう、最適な采配を振るうのが私の役目だ。
いくら元が人間の手で作られた物だとしても、神として具現し、命を張ってくれてるのだから。
そんな彼らの合戦は、もう目前――。




back