企画 | ナノ


「……っ、君は」
「ろくどー?…生きて、た、んだ?」
「…ご挨拶ですね。こちらはあなたが未だ生にしがみついている方に驚いていますよ」
「…………」
「あれ、二人とも知り合い?」

なら好都合、と超直感でだいたいの物事を察することができてしまう男が朗らかに笑った。柔らかいはずのそれは、彼が中学生だったころと比べて随分胡散臭くなったと骸は思う。
そう感じてしまうのは、これから言われるであろう面倒な仕事をある程度予感してしまったからなのかもしれない。彼…沢田綱吉ほどではないにしても、自分のこういった予感はよく当たるのだ。
昔と比べ、小奇麗になり………そして、その瞳に潜む陰の色も変えてしまったエリカは顔見知りであるはずの骸から視線を外し、綱吉の後ろで目線を伏せていた。



『…早かったですね』
『私は躊躇しないもの』
『顔についたものくらい拭えばどうですか、見ていて気分が悪くなります』
『別に見慣れてるでしょ?』
『だからといって好きな光景ではありませんよ』
『ふぅん…?そっか。六道は、血が嫌いなんだね』
『君は随分と短隔的思考ですね』
『あは、ばっさり。まぁ許してよ、きっついオシゴト後の戯言くらい、さ?』

そう言って暗闇に消えたエリカの背中を見たのは、いったい何年前の話だったのだろう。



「ろくどー、ろくどー。歩く、の…はやい」
「…急いでるんです。君に合わせている余裕はないんですよ」
「………そ、か。ごめん、ね」

違和感。彼女はこんなしおらしい返答などしないと記憶と経験が思考回路にささやく。そう長く一緒にいたわけでもないのに、それほどまでに彼女はあの頃と変わってしまった。

詳細を聞いたわけではないが、ボンゴレの門外顧問チームに発見され保護された直後よりは、意思疎通も感情表現もできている方…らしい。
まったく面倒だ。
ボンゴレに置くことが決定した彼女の世話を、たまたま今長期任務がない骸が受け這う羽目になるとは、報告書を執務室に出しに行ったあの時は気づかなかっただろう。


「そもそも、いちいち僕が行く所全てについてくる理由がないでしょう。部屋に戻って待っていなさい」
「ボス…仕事を、六道のそばで…お、ぼえろ、って」
「幹部がするような仕事をいきなりあなたに与える訳がない」
「実力、もみたい……そ、言ってた」


なにを回りくどいことをしているんだあの男は、と骸は内心悪態をついた。溢れる毒は必ず口に出す彼にしては珍しいことだ。
実力、そんなものはあのランキング能力を持った青年に調べさせれば一瞬のくせに。なんせ彼女は数年前とはいえ、裏社会でも名の知れた暗殺者だったから。

歩幅が大きい骸の隣を必死にキープしながら歩くエリカを横目で流し見る。門外顧問の女性の仕業であろう、高くきれいに結わえられた髪を揺らし、漆黒のスーツは新品のものをもらったようだ。

あの頃の彼女は身なりには殆ど身をつかわず、服だって何日も使った物を平気で着続けていた。髪はぼさぼさ、持っているものは使い古した物ばかり。
大金をせしめているくせに何故だ、とは思ったのだが、対して義理もない彼女に問いかけることをあの時の骸はしなかった。


「(…死んだのかと思っていたんですけどねぇ)」

最後に仕事した時以来数年、彼女の噂を耳にしたことはなかった。けれどそんな彼女は今、全くの別人といってもいいほどの変貌を遂げて骸の隣にいた。

prev / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -