唇の届く距離で
文♀仙
※仙蔵が先天的に女体
まぁ、色々とありまして。どうやら俺たちは互いに想い合っていたらしく、晴れて仙蔵と付き合うことになりました…と。ここまでは意外とすんなり来ることが出来た。問題はここからだ。
今までは決して想定することのなかった事態。
2人で迎える最初の夜。俺は湯浴みを終えてくのいち長屋に忍び込み、仙蔵の部屋の前で立ち尽くしていた。
どうしよう。もし嫌われたら。
まさか並んで眠るだけでは終わらないだろう。誘われたらいいが、誘われなかったら此方からいくべきなのだろうか、やっぱり。
いつもの戸がやけに重量感が増して見える。
このまま立ち尽くしていても仕方ない。…鍛練へ行って一度頭を冷やすか…。
「遅い」
考えを巡らせていると聞き慣れた声が届き、ハッと顔を上げる。
戸は、俺が悶々としているうちに、仙蔵によって内側から開かれたらしい。隙間から不機嫌そうな、呆れたような顔が覗いていた。
こんな風に見つかるのなら、さっさと入っておけば良かった。
「風邪ひく前に入れ」
「…、おう」
戸惑いながら部屋へ入ると、仙蔵は早くも布団を捲って潜ろうとしている。部屋の真ん中に引かれた1組の布団に、2つの枕が置かれていた。
高まる鼓動に、汗をかく手のひら。
慣れた部屋のはずなのに、落ち着かず挙動不審な俺を気にも留めず、仙蔵はさっさと横になると俺の入るスペースを空けて此方を見た。
「どうした。寝ないのか?」
「あ、いや」
緊張で固くなった体を動かし、仙蔵の隣へ腰を降ろす。
そっと手を握られ、ギクリと体が強ばった。
「…今日は一緒に寝ると言ったろう」
「…寝る、が」
いつも時間が無い俺を責めるような目線を向けられたが、今は拗ねているようにしか見えない。
心臓が口から飛び出てきそうだ。どうしよう、次はどうすれば…。何をどうすればいいんだ…!
「…汗」
「え」
スッと額を指されたので急いで拭うと、仙蔵は俺を見ていきなり吹き出し、笑い始めた。
「ぷっ!あははは…!あはは…!」
「………おい」
「あは…、あ、悪い。しかし何を焦ってるんだ?」
「焦ってねえよ、別に」
少しだけ緊張の糸が弛んだところで、手を繋いだままそそくさと仙蔵の隣におさまった。
遠慮なく体を寄せて来る仙蔵に対し、俺は指一本動かすにも気を使う始末だ。
「今日な、小平太に良かったなぁと言われた」
「…あいつ、目ざといな」
「何故分かったか聞いたら、顔に書いてあると言われてな…」
「どんな顔してたんだ?」
「さて…。しかし気に入らん」
何が、と言う前に仙蔵が無理矢理俺の上にのしかかってきたので、言葉を飲み込んだ。
「だって、お前の顔には書いてないじゃないか」
至近距離から台詞とはそぐわない弾んだ声で言うと、仙蔵はそのまま俺に全ての体重を預けてきた。重くはないが不安定だ。
少し迷ってから腕を回してやると、落ち着いたのか力を抜きどうやらこのまま眠るつもりらしい。
…が、正直やめてくれと言いたい。耳に息が当たって眠るどころではない。
「なあ、このまま寝るのか」
「そうだ」
「何で?」
「悔しいから。…重いか?」
「…重い」
「…ふん」
体をずらそうとした仙蔵に腕と足とを絡めて降ろさず、その綺麗な髪を撫でて宥める。
「俺の心臓の音、聞こえるだろ」
「…お、…早いぞ」
仙蔵は嬉しそうに耳を寄せてきたが、俺は何だか無性に恥ずかしくなり、眠れないのは分かっていたが逃げるように目を閉じた。
end.
お題お借りしました
「ギルティ」
湯上さんに捧げます。
素敵な文仙をありがとうございました!そして11万おめでとうございます^^♪
しかし折角リクエストして頂いたのに女の子であるという設定を活かしきれず…!!
私のへたくそ…!
久しぶりに書けて楽しかったです!*´∀`*
リクエストありがとうございました!^^