恋をするのは精神だが、愛を受け取るのは身体である

現代パロ、夫婦文♀仙
※女体注意!









「ただいま」

玄関で靴を脱ぎながら中に声をかける。ガチャガチャと食器のぶつかる音が聞こえていたから、皿洗いでもしてたんだろう。
短い廊下を進んでリビングにつながるドアを開けると、今まさにドアノブに手をかけようとしていたらしいエプロン姿の仙蔵があらわれた。一歩後ろへと後ずさり、俺の入るスペースをあけてくれる。
そんな仙蔵に向かって催促するように、二歩、三歩とつめ寄ると、仙蔵は近くに迫った俺から、照れたように目を逸らした。

「…おかえり」
「ん」
「…」

目を瞑ってしばらくそのまま待っていると唇に、ちゅ、と柔らかいものが触れる。
そうして目を開けるが、そこにあるのは既に仙蔵の後姿だ。しかし俺は今晩も言いようのない充足感に浸って、頬を緩ませたまま上着をハンガーにかける。

いつも通りってこんなにも素晴らしい。
仙蔵と夫婦になってから2ヶ月と少しが経つが、毎日のようにそう実感する。

「今日は何だ?」
「シチューなどなど。何か呑むだろう?」
「いや、今日はいい」
「?そうか」

仙蔵はアルコールを断った俺に一瞬首を傾げたが、またすぐに鍋の様子を見に戻った。

久しぶりに早く帰れた。それに明日は休み。
新婚夫婦が一緒に飯を食って、一緒に風呂に入ったら、あとやることは大抵決まっている。

冷蔵庫を開けたり包丁を使ったりと忙しない仙蔵の脇を通って、手を洗いながらにんまり笑って「久しぶりだな」と呟いたら、仙蔵も「そうだな」と適当に調子を合わせてきた。

今夜のお誘いはまた後にしよう。
包丁を使っているときにへたなことを言って、怪我でもされたらかなわない。









風呂を終え、パジャマ姿でソファーに腰かけ、水を飲みながらぼーっとニュース番組を眺める。オザワさんが何やら憤慨しているが、内容は頭には入ってこない。

一緒に入ろう、と声をかけたが拒否されてしまった。頬を赤らめ「嫌な訳じゃない」と強く主張する彼女に無理強いなど出来るはずもなく、唇を尖らせ寂しく1人で風呂を終えた。今は彼女が入っているが、そろそろ上がる頃だろう。しばらく水音が止んでいる。

ガチャッと脱衣室の鍵が開く音がして、ペタペタと軽い足音が後ろまで来て止まった。細い腕が、机に置かれた俺のコップを奪い去る。

振り向くと、俺とお揃いのパジャマに身を包んだ仙蔵が、片手にタオルを持って髪を拭いながら「ん」と空になったコップを返してきた。

「…」

風呂上がりの仙蔵は、色っぽい。
すっぴんだから地肌がほんのり色づいているのがわかるし、濡れた髪は後ろに流れているから、その顔立ちも全てあらわになる。
黙って見つめながらその細い腰を引き寄せると、また拒否するようにやんわりと肩を押された。

「何で嫌がる…」
「まだ髪が濡れてる」
「気にしねえ」
「私が気にするんだ」

舌打ちすると軽く頭を叩かれた。仙蔵は俺の腕から逃げ、またスタスタと脱衣室に戻っていってしまう。
そのうちに聞こえてきたドライヤーの音でニュースの音がかき消され、そのせいで待ちぼうけの時間が更に長く感じられる。

俺はまるでおあずけをくらった犬のように、何度も脱衣室の方を伺って、ただ待つことしか出来なかった。









やっと戻ってきた仙蔵がソファーに並んで座ったので、ぴったり寄り添うようにすると、仙蔵はくすぐったそうに俺を見て笑った。

「犬みたいだな」
「ふん」

自分が犬みたいだってことはとうにわかってる。甘えたっていいはずだ。俺は仙蔵のことが好きで、仙蔵には俺しかいないんだから。だって夫婦なんだから、俺たちは。
ぎゅうと抱きしめて体重をかけると、仙蔵が苦しそうに傾いた。

「重いっ…こら!」
「せ〜ん」

こうしていると仙蔵の体はやけに柔らかくて、小さいなぁ、女だなぁと、どこか感動する。俺とは違う生き物だから、俺が守ってやらないと。
ゆっくり足を撫でると、仙蔵の体がビクッとなり固く強ばった。触ること自体久しぶりだから、緊張しているのだろう。
緊張を解そうとキスしようとしたら、仙蔵は俺の唇から体を捻って逃げようとして、終いには俺の顔をぐいぐいと押し退けようとしてきた。

「くっ何勿体振ってんだよっ」
「ちょっとお前いきなり過ぎるぞ!私今からお笑い見ようとしてたのに」
「んなもんビデオでも撮っとけって」
「いや、あれはリアルタイムで見なければ…」
「何でお笑いをリアルタイムなんだよ!」
「うるさいっ」

リモコンを取ろうとした仙蔵に隙が出来たので、無理矢理ソファーに押し倒してやろうと腕を伸ばしたが、またひらりとかわされた。
仙蔵はソファーから立ち上がってリモコンを握りしめ、警戒するかのように体をこちらに向ける。

「猿だったのか?私のだんなは」
「おい、何でそんなに逃げんだよ。まじで」
「猿に迫られる女の気持ちになってみろ」
「…んー…」

頭をポリポリ掻いて立ち上がり、悩む振りをして徐々に近付く。仙蔵はジリジリと距離を取ったが、大して広くもない部屋ではすぐに壁にまで行き当たった。
身を竦める仙蔵の手からリモコンを奪い取り、ニュースを消した。

「…やりたくねえの」
「…そういう訳じゃ」
「…具合でも悪いのか?」
「ううん、違う」

壁に仙蔵を押し付けるようにして顔を覗くけれど、一向に目が合わない。
軽く、ほんの触れるだけのキスを瞼に落とすと、それだけで仙蔵の顔はカァッと真っ赤になってしまった。
理由は分からないけれど、いっぱいいっぱいな様子の仙蔵に、半分諦めつつこれが最後とばかりに、ぎゅうと抱きしめて耳元で囁く。

「久しぶりに、と思ったけど…、駄目か」
「…久しぶり、だな。確かに」

小さな声と共に俺の背中に仙蔵の腕が回された。より密着する体。風呂上がりだからかポカポカと温かい。

「やっぱり…」
「…?」

しばらくじっと抱き合っていたら、突然仙蔵が俺の耳元で「…抱いて」と消え入りそうな声で囁いた。その顔を見ようとしたが、恥ずかしがってか俺の肩に顔を押し付けたまま離れようとしない。
肩を引き離そうとしても、結構な力で俺の背中にしがみついているため、しばらくは彼女の真っ赤な耳とうなじしか見えなかった。









その後。寝室にて。

「…じゃあ、いいんだな?」
「…久しぶりだから、や…優しくな」
「……」
「文次郎…?分かったのか?」
「……」
「おい、返事…!ちょ…、あ…っ…!」
「……(優しく出来る自信がねえ…!!)」









end.

お題お借りしました
→「確かに恋だった」









裕姫さまへ!この度は1万hitありがとうございます!

現代パロで夫婦甘々文♀仙…ということでしたが、如何でしたでしょうか。

夫婦と言えば、おかえりのキス、エプロン姿、お揃いパジャマ、そして夫婦の営み!!と、大変たぎりながら書かせて頂きました^ω^

実は、妊娠ネタと非常に迷いました。予定外に赤ちゃんが出来て焦ってしまい、文次郎に言い出せない仙蔵とか可愛くないですか…?←
いつか書きたいと思います^^

それでは、素敵なリクエスト本当にありがとうございました!









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