学生パロ

(最近の若い奴の好みは全くもってわからん。あんな老け顔なんかのどこがいいんだか…)
思い切り手を握り締めているせいで手に鋭い痛みがはしるが、今の私にはさほど気にならない。

「文次郎のくせに!」
「なに急に声荒げてんだお前は…。」
「うるさい。」
「お前に言われたかねーよ…。」

目一杯握り締めているこの拳をそのまま文次郎の頬にめり込ませてやろうかと腕を引くと、頭の隅の方で冷静な自分が文次郎に当たってどうすると問い掛けてきたのでやめた。
(阿呆らしい、)

「元々残念な文次郎の顔を殴れば更にひどくなるからな、勘弁しておいてやる。」
「仙蔵、俺に当たるなよ。」
「黙れ。」

最初の頃は良かったのだ。文次郎といえば隈はあるし老け顔だからと周りからの第一印象はだいたい恐怖が占める。それなのに友好関係をいち早く築くため、だなんて今にも倒れそうな校長が言っていたこの前の体育祭からだ。ああ見えて運動もできる、周りが見える、冷静な判断ができる文次郎はその持ち前の人柄で周りから一目置かれるようになった。廊下を歩いていると見ず知らずの人間から気安く話しかけられるように奴はなったのだ。文次郎も文次郎で愛想笑いなんぞ顔に貼り付けてあしらっていちいち相手にしている始末。今日学校が終わってから始終無口だったせいできっと私のこの幼稚な考えは奴に見透かされているのだろう。だが当の本人はというと不機嫌な私を放っておいて今日配られた課題を黙々とこなしている。
(提出はまだ先だというのに…真面目というか、なんというか)
誰にも相手にされずに一人で怒るのも虚しくなったので視界の端に映った文次郎のベットに倒れ込む。ぼふん、と鈍い音をたてた布団が私を包み込んでいった。
(声をかけてくるのが大抵女だということが更に気に食わん…)
お前の化けの皮を剥いでやろうかと笑顔で尋ねたくなるほど化粧で顔を塗りたくる女共はどうもいけ好かない。別にそんな女達を文次郎が好く訳ないとは思うがこいつもこいつだ、何を思うかわからん。

「あー……、」
「仙蔵、言いたい事があんならはっきり言え。」
「わかってるくせに。」

目の前を覆う布団を手で押さえ付けながら奴の背中に今日初めての愚痴を零せば、先程まで全く相手にしてくれなかったくせに振り返った奴の表情は間抜け顔。

「訳わかんねえよ。」
「馬鹿文次郎。」

睡魔に襲われながらも耳に入るのは時計の針が時を刻む音だけ。なかなか話を切り出せない自分に苛立っていたが気付いた時には瞼が私の視界を覆っていた。

-------------

「おいっ仙蔵…、」

どのくらい時間が経ったのだろうか、私を呼び起こす声に反応して目を開ければそこはすっかり暗くなった文次郎の部屋。目を開いたのはいいがまだ寝ていたいという自我に免じてもう一度寝ようと寝返りを打ったところでまた呼び起こされる。

「仙蔵、泊まるのは別に構わんが家に連絡入れておけ。」

いつも通り文次郎から携帯を受け取って連絡を入れようとしたが、画面に映し出される日付にそうはいかない用事があるのだということを思い出し慌てて飛び起きる。

「ん?やけに今日は目覚めがいいな…明日は雨か?」
「帰る。」
「はあ?」
「じゃあな。」

急いで身仕度をする私に何を勘違いしたのか、私以上に焦った文次郎が出口を塞いだ。

「どけ。」
「どかん。」
「ち、」
「ち、てお前…。」

私の隠すつもりのな舌打ちに一瞬奴が怯んだところで、そのまま強行突破を試みたというのに文次郎の手が私の手を掴んだ。きっ、と鋭い目付きで睨もうとしたがその時には既に私は元居た文次郎のベットへと投げ出された。

「お前はすぐそうやって溜め込む…。」
「ふん。」
「言えばいいじゃねえか。気に入らないことや直してほしいとこ。」
「察しろ。私が何を言いたいかわかってるくせに。」
「……ああ、わかるさ。」
「先程わからないと言ったくせに!わかるならなぜ――」
「それじゃあ意味がないからだ。一応長い付き合いだ、俺だってお前の言いたいことはだいたいは汲み取れるようになった。だがな、それでも俺達は他人なんだ。肝心な時に俺は仙蔵をわかってやることができないかもしれない。」
「だから言えと?」
「そうだ。」

はあ、と私が溜息をつくのと奴が隣に腰をかけるのが重なった。隣同士でありながら何も手を出してこないことから文次郎は本気で私の話を聞こうとしていることがわかる。しばらく沈黙が続くなか、悩んだ末私は息を吸い込んだ。

「…自分でもわからん。文次郎だから大丈夫とは思っていてもなぜかお前が他の女と話しているのを見ると焦燥感に似た気持ちが私を襲う…。自分でもわかっているんだ。これは妬いているのだということをな。」
「やけに素直だな。」

淡々と浮かぶままに口にしていると私の素直さに怯えた文次郎が腕を擦りだした 。
(失礼な…っ)
不機嫌になったのにいち早く気付いたのか腰に腕を回され、ぐいと引き寄せられる。

「御機嫌取りか。芸のない奴め。」
「その芸のない奴に御機嫌をなおされてんのは誰だよ。」
「ふん、仕方なしにだ。」
「ああそうかいそうかい、もうわかったから黙ってろって。」
「何様だ。」
「……俺はあんな厚化粧な女は嫌いだ。それに…仙蔵を好く俺があんなお前とは正反対な奴を好きになると思うか?」

結局いつもどおり丸め込まれるのが悔しくてふん、と鼻で笑ってやったが果たして成功しただろうか。何を言ってるんだこいつは、と罵ってやろうと思ったのに今は今までになかった安堵が心を埋め尽くすだけで罵声のひとつも浮かばない。

「なんか悔しい。」

素直に言葉に出せばきょとんとしていた文次郎の表情はみるみるうちに笑みを含んだものになった。それがなんだか無性に恥ずかしくなって思わず脇腹をぐうで殴ればぐえ、とした声が降ってきた。痛そうな声をあげておきながら私の頭を撫でる文次郎の手に気付き、本格的に私は照れるしかなくなってしまった。

「心配すんなって。」
「…あほう。」
















***









ラルカさんから頂きました。えへえへ!

文次郎に「心配すんな」って言われたい…!はぁはぁ、何でそんなに男前なの文次郎。そりゃ仙蔵も不安になるよ!

ラルカさん、素敵な文仙をありがとうございました^^














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