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久々知は、駅で電車を待っているときに言いがかりをつけられたのだという説明と、怖かったのでありがとうございましたと礼を述べた。更に何かお礼をと言い出す彼女の申し出を丁重に断り、時計を見る。

17時20分。
…やってしまった。

私が唇を噛んだのを見た久々知が、申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「すみません…何かご予定が…」
「いや、気にするな。…お前は大丈夫だったか?怪我は…」
「平気です。…本当にありがとうございました」

久々知は少し落ち込んだ雰囲気だったが、しっかりとそう述べて頭を下げた。安心させるように微笑んで、その肩を軽く叩く。

「じゃあ、また学校でな」

共に自転車置き場を出てそう言うと、久々知は「はい、また…」と答えて駅の方へと歩いて行った。どこかへ出かけるのだろうか。何と言っても今日はクリスマスだ。久々知にも予定があるのだろう。

携帯を取り出す。
メール1件。着信2件。全て潮江からだ。
ここまで遅れてしまえば、もう焦りもしない。あと5分遅れようと10分遅れようと同じだ。ひょっとすると潮江はもう痺れを切らして帰ってしまったかもしれない。あぁ、どうしてこんなことに。何だか全てが嫌になる。重いため息を吐いたところで、携帯がピリリと鳴り出した。すぐに通話ボタンを押す。

「…もしもし」
『やっと出たか。どうしたんだよ』
「…ごめん」
『今、どこだ』
「もうすぐ着く」
『じゃあ、待ってる』

低い声と共にため息が聞こえた気がして、泣きたくなる。きっと呆れられてしまった。電話を切って、公園まで早足で歩く。
公園のベンチに座っていた潮江が、砂利を踏む音に振り向いた。駆け寄ると片手を上げてくれたので、いくらか安心して隣に座る。

「ごめん、何と言うか、色々あって」
「いいよ、もう来ねぇのかと思ったけどな」
「…寒かっただろう」

暗い公園。吐く息も白くなるような寒さの中、ずっと待っていてくれたからだろう、潮江の鼻は少し赤みを帯びていた。痛々しく見えて申し訳ない、そしてそれ以上に有り難くて、どう言葉にして返せばいいのか分からない。

「どうってことねぇよ。気にすんな」
「…」
「じゃあ、行くか」

理由も聞かず、すんなり許してもらえた。自分なら相手が30分も遅れたらどうするだろうと考えると、とにかく胸が詰まって何も言えない。立ち上がろうとした彼の手がポケットから出た。それを見て、ポケットの中で暖を取っていたのだと知る。

「手袋は?してないのか」
「あぁ、今日は忘れた」
「じゃあ私のを貸してやる」
「いいよ、自分でしてろって。…第一、そんな小さい手袋…」
「あ…」

手袋を外して渡そうとしたところでそう言われて、ハッとした。潮江の骨張った手は、私のと比べると明らかに大きい。

「…でも寒ぃから、手、繋いでも」

仕方なく手袋をはめなおそうとしていた。が、そう言われたので差し出された手を躊躇せず握る。
握り返してくる指の先は、氷のように冷たい。急いで両手で挟むようにして温めてやる。
その状態で歩く潮江について行くと、自然と横歩きになった。

「歩きにくくないか。それ」
「歩きにくい」
「いいって、片手で」

片手を離すと、そのまま繋いだ手を彼のポケットの中に導かれて驚いた。だってこんなことをするのは、普通カップルだけだ。

「これ、は、ちょっと…」
「嫌か?」
「そういう、気持ちとは関係なくて、だな…」
「…嫌じゃないならいいじゃねぇか。…温かいだろ?」
「そりゃ…、…でも」

それ以上言おうとしたときに、少し強く手を握られて言葉をなくした。まるで、他の誰かには見えないところで、何かメッセージを送られたような。
今なら繋いだ手を通して、気持ちが伝わってしまうような、そんな気がした。















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