目を閉じればきみが浮かぶ ※仙様の気持ちの方が大きいです 私としたことがやってしまった。 この寒い中、池にはまって着替えもせずに1年生のよいこ(?)達と追いかけっこをしていればそりゃ風邪もひく。 …熱い。 はぁ、と息を吐いて額の汗を拭う。 文次郎はどうしたのだろう。 ついさっきまでは、確かにそこで委員会の仕事をやっていたはずなのに。 一眠りしているうちに鍛練にでも行ってしまったのだろうか。 「あほ文次…」 ガラッ。 戸が開いて、ペタペタという間抜けな足音がした。文次郎でないと気付いて顔を傾ける。 「…綾部」 「風邪をひかれたそうですね」 「ああ。心配して来てくれたのか?」 「はい」 綾部は水を張った桶をそっと私の傍らに置いて、まるで何かを探るようにじぃっと目を合わせてきた。その視線をまっすぐに受け止め、次の言葉を待つ。 「潮江先輩は…?」 「…さぁ、鍛練かな」 綾部は私の呟きを聞いているのかいないのか、無表情のまま「よいしょ」とかけ布団をはいでしまった。 熱くてこもっていた服の隙間に、冷たく乾いた空気が通る。 「…こら、何をする」 「先輩」 「おい」 綾部が腹に乗ってきた。ずっしり腹に感じた重みが苦しくて眉をしかめる。 「何だ」 綾部の細い指が私の頬をなぞった。そのまま首、鎖骨、胸と。どこまで下がっていくのかと思ったときには、襟が左右に割り開かれていた。 「綾部…?」 「立花先輩…」 汗でべたついていた全身を綺麗に拭われ、着物も替えてくれた。 さっぱりして清々しい。 先ほどと同じように寝転がっているだけなのに、やたらと気分もすっきりしていた。 「…ありがとう」 「いいえ。私はもう戻るので…、眠っていて下さい」 仕上げとばかりに濡れた手拭いを額に置かれたので、好意に甘えてこのまま寝てしまおう、と目を瞑った。 「綾部?」 「あぁ、潮江先輩」 「何やってんだ」 「ちょっと、立花先輩が心配で」 「…そうか。俺がついてるから、もう帰っていいぞ」 「…はい」 桶を持ってふらりと部屋を去って行く後輩を見送り、仙蔵の隣に腰を降ろす。 額に乗った手拭いを替えてやろうと前髪をわけてやってから取り去ると、ぱちりとその目が開いた。 「帰ったか」 「おう」 もぞもぞと手が出てきたのでぎゅうと握ってやると、いつもと違ってそれはやたらと温かい。仙蔵は俺の手を引っ張って支えにし、むくりと体を起こした。 「文次郎」 「ん?」 「…甘えてもいいか」 返事の代わりに腕を広げてやると、素直にぎゅうと抱きついてきた。 弱っているのかなと思った途端、こいつが寝ていたとは言え委員会の仕事で姿を消してしまったことを申し訳なく感じて、温い背中をよしよしと擦ってやった。 end. お題お借りしました 「確かに恋だった」 |