救いたい、救われたい

※お互い社会人
※同棲してます









会社からの帰り、重い足を引きずるようにして家へと向かう。

今日の仕事でミスをしてしまった。それも、個人で処理出来る程度のものではなく、上司にまで迷惑をかけてしまう程のミスを。

個人情報を取り扱う保険会社の仕事には、ときに細やかな気遣いが要求される。

繊細とは言い難い自分には向いていないのでは、辞めてしまおうか、と今までに何度も考えた。

しかし、その度に上司や同僚が共に酒を飲みながら温かい言葉をかけてくれるため、今までこの仕事を続けられている。
幸い、仕事仲間には恵まれていた。

先ほども同僚に「飲みに行くか」と誘われたが、今日はかなり気分が沈んでいたこともあり、何より仙蔵に癒されたいがために、それを断って会社を出てきたのだ。

ガチャリ、とドアノブを回して「ただいま」と中へ声をかける。リビングには明かりが点いているが、返事はない。

靴を適当に脱ぎ捨て、ネクタイを緩めながらリビングのドアを開けると、洗濯物を抱えた仙蔵がこちらを見て「おかえり」と言った。

「晩飯出来てるぞ」
「悪い」

仙蔵は新米の警察官であり、近所の交番に勤務している。

毎日同じような時間帯に帰ってくるため、早く帰って来た方が夕飯の準備をする、と2人の間で決めていた。

「何か疲れてるな」

仙蔵は綺麗に畳まれた着替えとタオルを手に持ち、俺をからかうようにトン、と体をぶつけてから廊下へ出て風呂場へ向かって行った。

「風呂入んのか」
「ああ、先に食べておいてくれ」

戻って来た仙蔵は台所に入り、コンロの火をつけて鍋を温め、食器棚から皿を取り出した。

てきぱきと動く仙蔵が俺の前を通ったときに、その肩を捕らえて背中から抱きつく。

「風呂、一緒に入っても」
「はは、冗談」

仙蔵は皿をワゴンに置いて、くるりと正面から俺の腕に自分から収まった。

その手が優しく背を撫でてくれて、己の情けなさに鼻の奥が少しツンとなる。

「私は信じてるよ、お前を」

ぎゅう、と温かい体を寄せて、耳元で囁く声までいつもより柔らかい。

人より繊細な仙蔵は、俺が傷付いているときはいつも気遣って癒そうとしてくれる。
何よりその気持ちが嬉しかった。

正面から唇を寄せようとするが、仙蔵は呆れたように笑って、逃げるようにそっぽを向いてしまう。代わりに目の前に現れた白い首筋に唇を寄せた。

「こら」と言って軽く背中を叩かれたが、離しはしない。

「文次郎」

咎めるように言われて、何故か心拍数が上がるのを感じた。

「嫌か」
「風呂に入るんだ、私は」

体を捻って俺の腕から抜け出した仙蔵は、何もなかったかのように晩飯の準備を再開しようとする。

半ば意地になって、その肩を掴んで無理やり壁に押し付ける。
一瞬怯んだ仙蔵の表情を見て、我に返った。

「…あほ文次」

ドン!と肩を押されて一歩後ろに下がると、真っ直ぐから鋭い視線に睨まれて萎縮してしまう。

「お前は私に八つ当たりがしたいのか?」
「…悪い。痛かったか」
「…これくらい何ともない」

仙蔵はまだ温まっていない鍋の火を止めると、そのまま俺の前を過ぎて行き、廊下へ続くドアを開けた。

「詫びる気持ちがあるなら背中を流せ」

俺の返事も聞かぬまま、仙蔵はパタリとドアを閉めて足早に風呂場へと向かう。

風呂に一緒に入るのは初めてだったため、いいのだろうか、としばらく迷った後
スーツを脱いで椅子に引っかけ、ネクタイもその辺に放ってその後を追った。









end.







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