A

信吉が家庭科室に去ったあと、その背を見送る潮江の背を、立花のステッキがつつく。

「なんだよ」
「また告白でもされたか、モテるんだな潮江先輩は」
「……。そんなことより、うしろ、パンツ見えてんぞ」

立花の衣装に一度は安心したものの、ちらちらとのぞく肌がどうも気になるらしい。
動くと背中が見えそうになる服の丈にハラハラして目が離せず、ついにゴムの部分が目に入ると、我慢できなくなった潮江が、立花の背後にまわった。

「見えてるんじゃないぞ。見せてるんだ」
「男物のパンツ見えても、嬉しくもなんともねえだろ」
「だからこそ別に、見えたところで……」

立花は気にした様子もなく、背中を預けて好きにさせてやっている。彼にとって、少しくらい下着がのぞこうが、大した問題ではないのだ。
下着をショートパンツに押し込もうとしていた潮江だが、なかなか入らず面倒になったのか、ベルトごと上に引っ張った。当然喰い込むかたちとなり、突然の刺激に立花は悲鳴をあげて飛びあがる。

「うっわあ、危ないだろうあほか!」

すかさず逃げ出そうとし、慣れない靴でよろめいてしまう。
再度その腰を捕らえた潮江の表情は、真剣そのものだ。

「待て。つか、なんだその反応」
「ちょっとお前。顔が怖いんだが」

ピーーーーー!

鋭いフエの音が響く。
フエをくわえて駆け寄ってきた七松に、その場にいる全生徒の視線が集中した。
その腕には「護衛」の腕章、そして……。

「おさわり禁止だぞ、文次郎!」
「小平太、その、手に持ってるやつは……」
「例の後輩じゃないか」

後輩の平を軽々と抱えている。それも、セーラー服姿の、だ。

「放っておいたら危険なほど可愛いから、抱えて歩くことにした」

名案だろう、と笑い声をあげる七松に、複数の呆れた視線が向かう。
抱えられた平は、おそらくすでに諦めたのだろう、反論することなく、しかし赤くなった顔を両手でおさえて、決して見せるまいとささやかな抵抗をしていた。














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