1.きみを苦しめるのは誰? ※男子校。 「女装コンテストだぁ?」 朝。潮江の素っ頓狂な声が、登校する生徒の群れを突き抜けた。 「そう。男子校でのミスコンだ!面白そうだろう」 「不埒な!そんなもんを面白いとは、とんだ変態だな!」 「なにぃ!?」 どちらが先か、互いの手が肩を押し合い、至近距離で睨み合い、ついには掴み合ったところで、待ったの声をかけたのは、食満と同クラスである善法寺だ。 「しょうもないことで喧嘩するなよ、もう決まったことなんだから」 「善法寺先輩!探しました」 この校舎では聞き慣れない声のした方へ三人が視線をやると、そこには、ミスコン実行委員会委員長の鉢屋三郎がいた。 「え、どうかしたか?」 「先輩に折り入ってお願いが」 一方的に肩を組み、呆ける善法寺をさらっていこうとする鉢屋の首根っこを、食満の手がすかさず捕らえる。 「コラ、伊作に何の用だ」 仕方なく善法寺を解放して向き直り、被害者ぶって襟を直した。 「服が乱れたじゃないですか……スカウトですよ、スカウト」 「スカウトってまさか、ミスコンのか?」 「あれ、よく分かりましたね」 その通りだと頷く鉢屋に、善法寺は驚いて手を左右に振った。 「僕には無理だよ、女装なんて」 「先輩は化けます、私に任せて下さい。てか、本当お願いします。人数足りないんです」 「そ、そうなのか。うーん……」 真剣に頼み込む後輩に押され、意志が揺らぎかけたところに、またしても食満が割り入る。 「伊作。ひらっひらのスカートを大勢の前で履く勇気はあるのか?」 「それは嫌だな」 「ちょっと食満先輩。邪魔しないでくださいよ」 作戦失敗とばかりに顔をしかめ、やはり連れ去ろうと善法寺の腕を取るが、それを制したのは、傍観を決め込んでいた潮江だ。 「人数が足りねえんだろ?参加してやれよ、伊作」 後輩に助け舟を出したことで、食満の目が吊り上がる。 「おい!さっきは不埒だとか言っておいて」 「そっちこそ!楽しそうだなんだと言ってたじゃねえか」 そして同じ流れだ。つかみ合う前に、と善法寺がすかさず間に入る。 「あーもうやめろって!面倒臭いな。やるよ、やるから」 ミスコンへの参加を了承し、だから早く行け、と争いのタネである鉢屋を追い返そうとするが、抜け目ない後輩は余計な一言を残していった。 「善法寺先輩、ありがとうございます。気になるなら、潮江先輩と食満先輩もご一緒にどうぞ?……お笑い要員としてですが。ではでは」 この発言がもう一悶着生んだことは言うまでもない。 |