彼が幼児に若返り? 仙蔵が小さくなった。 年齢で言うと10歳かそこらだろうか。1年生と同じくらいの身長だ。 「可愛いじゃねえか」 頭を撫でようとした手が叩き落とされたので、今度は無理やり撫でてやった。 小さな頭。 「汚い手で触るなッ」 「頭握り潰すぞてめぇ」 「…!」 低い声を出すとサッと青ざめ慌てた様子で廊下に逃げていく仙蔵。捕まえようとして俺も廊下に出ると、 ちょうど向こう側から留三郎が歩いてくるのが見えた。 「…ん?誰だぁお前、こんなところで。迷子になったのか?」 中庭に逃げようとしていた仙蔵の腕を捕まえ、しゃがみこんで目線を合わせる留三郎は、どこかいきいきとした表情で仙蔵を見ている。 「あー…留三郎、そいつはな、」 それが仙蔵だと知ってからも、留三郎は何かにつけて仙蔵に構おうとした。 「仙蔵ー飴貰って来たぞー」 「ほら、あーん」 「疲れたろ?おぶってやろうか」 最早留三郎が仙蔵の世話をするのは当たり前のような空気になっていて、俺と仙蔵が二人きりでいるのは部屋で休むときだけになっていた。 「あいつは本当に子供が好きだな」 ふぅ、と大人びた仕草でため息をつく子供。最初は不自然に感じていたこのアンバランスさにももう慣れてしまった。 トタトタと廊下をこちらへ向かって歩いてくる足音が聞こえてくる。 「言ってるそばから。来たみたいだぞ」 「こんな時間に?」 仙蔵が振り返るのと同時に戸が開く。そこには桶と手拭いを抱えた留三郎が居た。 「仙蔵ー風呂入ろうぜ」 風呂から上がって来た仙蔵はやたらと機嫌が悪そうで、布団の上に胡座をかいてムスッとしている。 「おい、仙」 「…」 声をかけても無視された。それどころかこちらを見ようともしない。 一応、俺とこいつは世間では「恋仲」と呼ばれるような関係である訳だが、最近二人で過ごす時間はめっきり減っている。 正面から寄って行きその軽い体を抱き上げて膝の上に座らせてやると、ようやく目が合った。 「どうした?」 「…お前は、今の私に興味がないのだろう」 「は?」 「最近私を構うのは留三郎じゃないか」 「それは、あいつが、だなぁ」 「もういい。離せ」 俺の膝から退こうとする仙蔵の左腕を掴むと、対抗するように仙蔵の右腕が振り上げられた。 ボカッ! 直ぐ様左頬に衝撃。火花が飛んで、脳が揺れるような感覚がする。 ドサッ…! カッとなった俺は気付けば仙蔵を布団に押し倒し、その両腕を押さえつけて小さな体を見下ろしていた。 「やけに生意気なガキじゃねえか。ああ?」 身動き一つ取ることの出来ない仙蔵はしかし怯える風でもなく、ただ冷めたような目付きで俺を見上げていた。 「…んだよ、その目は」 「根性無し」 「は?」 「今の私をどうこうする度胸も無い癖に」 彼の言葉の意味に思い至り、思わず眉根を寄せる。 「…そんなもん、お前…」 出来る訳がない。 仙蔵が小さくなってからは1人で処理していたが、今の仙蔵にそのような行為を強いることが出来る筈もなかった。 無理に抱けばこの小さな体を壊してしまうことだろう。 「やってみなければ分からんだろうが」 「いや、分かるだろ」 「よし、ならば一度やってみよう。それで無理なら、」 「初めっから無理だっつってんだ」 「…そうか」 「…おう」 「私はもう用無しか」 「…」 駄々をこね始めた恋人に弱りつつ、機嫌を取ろうと唇を寄せた。 触れ合わせるだけにするつもりだったが、仙蔵の舌に唇を舐められ、誘われるままに舌を差し込む。 小さな唇、歯、舌。が俺の舌の動きに懸命に応えようとしてくるのはいじらしく、たまらない気持ちにさせた。 何度も角度を変えて堪能していると、限界を訴えるような苦しそうな声が聞こえたので名残惜しく思いつつ、唇と、押さえていた腕を解放してやる。 くたっとしてハァハァと胸を上下させるこいつは、10歳とは思えない程の色気を放っていて、……… いやいや、何を考えているんだ俺は。 想像してしまった映像を振り払っていると既に呼吸を落ち着かせた仙蔵が、起き上がって俺の首に腕を回してきていた。 「もう一度」 熱っぽい視線から逃れることなど出来る訳もなく、その小さな後頭部に手を添えて、また唇を寄せた。 end. お題お借りしました。 「確かに恋だった」 |