その手を取るのは自分だと

「あれ、数馬は?」
「…あれ?」

3年生6人で忍務に出掛けるといつも必ず誰かが行方不明になる。

左門、三之助は勿論、彼らを追って消える作兵衛。虫を追って消える孫兵。いつのまにか転んだり穴に落ちたりして消える数馬。

今日は数馬か。僕はため息をつくのを何とかこらえた。他のメンバーが全員揃ってるだけマシだと思わなければ。

「ここだよ〜」

ふと近くから数馬の声が聞こえた。

何だ、すぐ近くにいるんじゃないか。

ホッとして声のした方に駆け寄ると、ぽっかりあいた穴があった。穴の底には泣き出しそうな数馬がいた。

「手、貸して…」

伸ばされた手を躊躇いなく掴み、足を踏ん張って引っ張り上げる。
数馬は袴を泥だらけにしながらも何とか地上に這い上がった。

「馬鹿だな、何やってんだよ」

立ち上がった数馬に駆け寄ったのは作兵衛だ。
パンパンと土を払う数馬は眉尻を下げて泣きそうな顔になる。

「ごめん、僕、足手まといになっちゃって」
「アホ。んなことどーでもいいんだよ。…怪我してないか?」
「…うん」

良かった、と囁いた作兵衛は数馬の頭をポンと撫でた。
数馬は怒られると思っていたのだろうか。一瞬はポカンとしていたがすぐにハッとして

「ありがとう」

と作兵衛に笑いかけた。
作兵衛も満足そうに「おう」なんて言って照れ笑いを浮かべている。

あぁ面白くない。

元々数馬は手のかかる奴だし、作兵衛はああいう性格だ。
いつかこうなるだろうとは思っていたけれど。

いつまで僕は数馬の手を握ることを許されるだろう、といつのまにか考えている自分に嘲笑が漏れた。

「あれ、左門がいないッ!?」
「うん、いつのまにかどこかに行っちゃったみたい…ってうわあぁっ、ジュンコ待って!」
「孫兵お前が待てっ!…あー…行っちまった」
「じゃー俺は左門を探してくるからよ、作兵衛は孫兵を」
「三之助、お前が消えたら俺たち探しようがない…ってあーもう、行くなってばぁぁ!!」

あっという間に全員が消えた。その場に取り残されたのは僕と数馬だけ。

「た、大変っ!僕たちも行こう、藤内!」
「あ…おうっ」

差し出された手は乾いた土に少し汚れていたけれど僕は迷わずその手を握り、2人同時に駆け出した。




end.




お題お借りしました。
Aコース










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