海辺の恋@  
(お題配布元:確かに恋だった様)



『おハロー。今何してるの〜?』
『休憩中だ。暑い』
『お疲れ様!熱中症に気をつけてね?』
『ああ。そういえば明後日には帰れそうだ』
『ほんと?!予定より早いね!うれしい!もしかしてリノアちゃんのためにがんばってくれた?』
『今度のお祭り行けないと拗ねるだろ、お姫様は』
『ありがたき幸せ〜!』
『懐かしいなそれ』
『あ、覚えてた?またまたうれしい!』

メールを打つ手をとめて携帯電話を膝の上に置き、手元のペットボトルのキャップを開けた。
蝉の声がうるさく鼓膜を叩く、うだような暑さの中で乾いた喉を潤すと、買ったばかりの水が喉の奥を冷たくしてくれる。しかしそれも束の間のこと。すぐに熱い身体の一部に溶けてしまった。

砂浜にある大きな岩の木陰に腰をおろしていた俺は水滴を周りにまとったペットボトルを砂の上に転がした。その直後に砂まみれになってしまうことに気づくものの、まぁいいかと思い直し、それよりも早く返信を打とうと携帯電話を握りなおした。その瞬間、震えるそれ。続けて彼女からメールが入ったようだった。

『わたし今どこにいると思う?』
『ガーデンじゃないのか?』
『ぶっぶー』
『今俺の真後ろ、とか?』
『ちがうよーん』
『分からないな。どこにいるんだ?』
『じゃじゃーん!』

おどけた文字が躍ったあとに送られてきたのは一枚の写真だった。
写っていたのは、白い雲と青い空、白い砂浜。そして真夏の太陽が反射してキラキラと光る海をバックに、写真の右側から写る途切れたピースサインだった。ぎりぎり写っている手首には見覚えのありすぎる時計バンド。その手の持ち主がリノアであることを裏付けてくれている。 去年のリノアの誕生日に俺があげたものだ。

『バラムの海か?』
『うん!キスティスとゼルと一緒だよ!スコールも今日は一日中浜辺?』
『ああ、ドールも暑いぞ。肌が痛い。』
『もう1週間になるもんね、帰ってきたらスコール黒こげかも?楽しみ!』
『楽しみにするようなことじゃないだろ』
『だって日焼けスコール見たことないんだもん、結構肌白いじゃない?』
『まぁな。それよりちゃんと水分と塩分取れよ』
『はーい!』
『あと、変な輩に近づくなよ』
『はーい!』
『…もしかして水着じゃないだろうな』
『もうっ、指揮官殿、心配性〜』

気になる問いに対して何も返ってこなかったことに不満を覚えながら、少々いきすぎた質問だったかと自問自答する。が、やはり心配なものは心配なのだ。リノアは…可愛い。整った顔立ちにすらりと伸びた手足、屈託のない笑顔は見る者を虜にする。綺麗というよりはやはり可愛いという言葉が似合う彼女の水着姿など、海で放っておかれるわけがないのだ。
キスティスとゼルがついているとはいえ、キスティスはいくらSeeDと言えど女性だ。ファンクラブがあるくらいの彼女だからむしろ「綺麗」を好む奴らが寄ってきてしまう。となると残るはゼルだが………彼には失礼だが、やはりいささか不安だ。

携帯の前で悶々とする俺を見ているかのように、リノアから再びメールがきた。また写真だ。
麦藁帽子に白いレース地のワンピースを着たリノアと、淡い紫と青が入り混じった涼しげなワンピースを着て日傘をさすキスティスだった。リノアの満開の笑顔が、奥に映る日差しよりも眩しく見える。

『どう?安心した?』
『ああ、一応な。でも気をつけろよ』
『スコールくんが大事にしているリノアちゃんには指一本触れさせません!』
『是非そうしてくれ』

昔はメールなんて業務連絡のみ、必要最低限でいい、面倒だ、と思っていたのに、今はどうだろう。あの頃の俺からは考えられないほど、一見意味のない、他愛のないメールをするようになった。意味のない内容に思えても、そこに意味はあるのだ。任務に追われる俺にとって、リノアと繋がっていられる手段のひとつは大事なものだった。文面ひとつひとつ見ても、まるで目の前にいるかのように、リノアの声が、表情が頭の中に思い描かれる。

再び携帯が震える。次はゼルからのメールだった。文面は『よう!』の一言で、写真が貼付されている。
開いてみると、砂浜にしゃがみこんだリノアの後姿と、その横に何をしているのか覗き込むようにしているキスティスの後姿を随分と遠目に写した写真だった。

これを送りつけてくる意図がいまいちわからないが、リノアが写ってる、ということで迷わず保存した。そこで続けてゼルからメールがきた。

今度は写真が2枚貼付してある。
1枚目を開くと、リノアの白いうなじが目に飛び込んできた。予想外の写真に危うく携帯を落としそうになりながら、改めてもう一度見直すと、先ほど送られてきたしゃがみこんだリノアの真後ろまで近づいて撮ったものらしい。髪をサイドに流しているためいつもは髪で隠れるうなじが見えている。
当の本人が後ろを向いて何をしているかといえば、細い指が砂をなぞっている様子から見て、どうやら砂浜に何か書いているらしい。"何か"は見えない。

ガーデンに帰ったらゼルの携帯からこの写真は削除しよう、そう心に決めて2枚目の写真を開いた。
カメラに振り向き、少し頬を赤らめたリノアの慌てた顔が写っていた。ゼルがカメラを起動させた携帯片手に、うしろから近づいてきたことに気がついた瞬間を捉えたものなのだろう。1枚目の写真で砂をなぞっていた手は砂に書いたものを見せまいと手のひらを大きく開き隠している。
しかし、残念ながらゼルが一枚上手だったらしい。隠しきれていないそれが写りこんでいた。

ハートマークの下に三角形、そのど真ん中に一本の縦線。それを挟むようにして書かれた俺とリノアの名前。―――いわゆる相々傘というものだった。
分かった瞬間にプッと噴き出した。周りに誰もいなくて良かったと心底思いながらそのままくつくつと喉を鳴らして笑う。

(かわいいやつ。)

今浜辺で繰り広げられているであろうリノアたちのやり取りを思い浮かべると笑いが止まらない。
その間に再び携帯が震えた。今度は電話のようだ。"Rinoa"と表示された画面を見て、溢れ出る笑いを何とか押し留めながら通話ボタンを押した。

『もしもし』
『あのね!ゼルからのメール見た!?』

電話を取るや否や焦った声が聞こえてくる。それがまた面白くて俺の笑いを誘う。

『…いや、』
『良かったー!あ、じゃあこの通話切ったらすぐに消してくれる?』
『…どうしてだ?』
『や、あの、その、…あっ!そう!ゼルがね、みつあみちゃんに送るメール間違ってスコールに送っちゃったんだって!だからね!?見たら悪いでしょ?』

明らかに上ずっている声が楽しくてついつい悪戯心を出してしまった。嘘をついたことは申し訳ないが、リノアの反応は、たとえ俺がまだゼルのメールを見ていなかったとしても嘘だと丸分かりだっただろう。

『電話切ったら絶対、絶〜っ対!消してね!』
『ああ、相合傘の写真を保存してから消すよ』
『あーーーーーー!?スコール見たのね!?見たのね!?見てないって言ったのに!ばかー!』

耳元で叫ぶ声に思わず携帯電話を少しだけ遠ざけた。
お姫様はご立腹のようだ。ご機嫌をとらなくては、と切り出す。

『悪い悪い、ちょっと面白くて』
『もーっ、スコールなんて知らない!』
『そう怒るなよ。…分かった、お詫びのメール送るから待ってろ』
『メール…?』

珍しい提案にリノアが訝しげに声を潜め、俺の癖のように少し眉を寄せたであろうことが伝わってきた。それからすぐ、期待を隠し切れない少し楽しげな声が返ってくる。

『コホン…、わたくしめをがっかりさせるようなメールだったら反省文ですからね!』
『くく…かしこまりました、姫』

ではまた後ほど、と短く告げると、通話を切った。胸ポケットから薄い手帳を取り出し、バラムガーデンの校章が描かれたそれを開くと、挟んであった一枚の写真を手に取った。それを砂の上に置く。
我ながら馬鹿らしいと思う。メールも電話もそうだが、まさか俺がこんなことをするようになるなんて、少し前の俺が見たらどう思うだろう。鼻で笑うだろうか、怒るだろうか、呆れるだろうか。

写真を置いたその横に、指を乗せる。何を伝えよう、と少し思案して、シンプルな言葉を選んだ。走らせた文字を見てやはり消そうかとも考えたが、ご機嫌ななめなお姫様が今頃首を長くして待っているはず。諦めてそのままにすることにした。
彼女のためならこんな恥ずかしいことも時々ならしてみるかという気が起こるのだから驚きだ。人間変われるものなんだな、としみじみ感じながら俺は指についた細かい砂を払い落とした。
その手で携帯電話を取りカメラを起動させると、写真と文字が画面に収まるように調整して撮る。そして『他の奴らに見られないようにしろよ』という一言を送ってから、写真を送信した。



時間にして1分程度だろうか。返信が来た。
『ゆるしましょう!ゆるしましょう!』という懐かしい言葉のあとに写真が1枚。


そこには、先ほどのリノアお手製の相合傘の全貌と、その下に丸っこい字で書かれた『I LOVE YOU , too!!』のメッセージ。
ただ、『Me too.』ではなく、しっかり言葉をくれるところがリノアらしい。

すぐにでも彼女に会いたい、と逸る気持ちを抑え、口元を綻ばせる。
砂の上に置いたままだった写真を手に取ると、その中に咲く笑顔にキスをした。




砂浜に描いたI LOVE YOU

END






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