赤ずきんと栗色オオカミ  




むかしむかし、あるところに、栗色の毛並みを持った一匹のオオカミがいました。
しかし、この地域に縄張りをもつ他のオオカミはみんな美しい黄金色。一匹だけ毛色の違うこのオオカミはいつも仲間はずれにされていました。

すっかり一匹で生きることに慣れたオオカミは、ある日、黄金色の群れの中で話題になっているうわさを耳にしました。
山のふもとの村に可愛くて美味しそうな女の子がいる、と。
若い女の子はオオカミたちの大好物。黄金色のオオカミたちは誰が仕留めるか、という賭けをして盛り上がっているようでした。

そこで栗色のオオカミは黄金色のオオカミたちを出し抜いて、自分が仕留めてやろうと思いつきました。
そして、早速山を下り始めたのです。



その頃。

「よっ、赤ずきん!今年はたくさん採れたんだ!良かったら貰ってくれよ!」
「わ〜!おいしそうなブドウ!ありがとう!」

オオカミの間で話題になっているとも知らない女の子は、家に訪ねてきたお隣さんからうれしそうにブドウを受け取りました。
黒い髪に黒い眼。笑顔のかわいらしい女の子です。
そんな女の子は幼いころに母親が縫ってくれた赤いずきんがよく似合うことから、村では「赤ずきん」と呼ばれており、たくさんの人から愛されていました。

「ねぇ、見て!ママ!こんなにおいしそうなブドウを貰ったの!」
「あ、リノア!いいところにきた!」

リノアと呼ばれた女の子―――ブドウを抱えた赤ずきんがダイニングへ入ると、両親が駆け寄ってきました。

「どうかしたの?」
「それがさ、おばあちゃんの具合が悪いみたいなんだ〜。」
「ほら、おばあちゃん、リノアのこと大好きでしょ?だからリノア、お見舞いに行ってあげてほしいの。」

赤ずきんは躊躇うことなく頷きました。
そして、たった今もらったブドウをはじめ、ケーキやフルーツ、飲み物をお見舞いに、とカゴに入れて準備を済ませます。

「森の中はオオカミがいるんやから、十分気を付けてな?」
「寄り道せずにまっすーぐ行くんだよ〜?絶対だよ〜?」
「まっかせて!」

不安げな声をかけた両親とは対照的に、赤ずきんは満面の笑みで答えます。
赤ずきんはうきうきと歌を歌いながら家を出ていきました。



「セフィ、ほんとに大丈夫かな〜。森に一人なんて初めてだし危ないよ〜。」
「そんな情けない声出さんといて、アービン!」
「だってあんなに可愛い我が子を〜…。」
「だいじょ〜ぶ、あの子は強い子!」
「そりゃあそうだけどさ〜…。」
「そ、れ、に!これは初めてのおつかいや!ビデオチャンスや!!!」



***



村へと向かっていた栗色オオカミは、人の匂いと声に気が付き草むらの影に身をひそめました。楽しそうな歌声が近づいてきます。

(…あれか、例の獲物は。)

覗き見た先を歩いていた赤いずきんに、オオカミは確信しました。
うわさで「黒髪と瞳を持つ、赤いずきんをかぶった女の子」だと聞いていたのです。

(こんなところに自分からのこのこやってくるなんてな。…まぁ、これで村まで行く手間が省けたわけだ。)

しかしここから飛びかかってあっという間に目標達成するのも面白みに欠けると思ったオオカミは隠れることをやめ、後ろ足で立ち上がると赤ずきんの前に姿を見せました。

「そこの赤ずきん。」
「わあっ!?」

思わず尻もちをついてしまった赤ずきんは丸い目をぱちくりとさせてオオカミを見上げると、少し間を置いてから言いました。

「もうっ!びっくりさせないでよ!」

今度はオオカミが目を丸くしました。
てっきり、恐怖のあまり泣き出すか、はたまた悲鳴を上げて逃げ出すかと思っていたのに、女の子の反応が予想を反していたからです。
オオカミは思わず謝りました。

「す、すまない…。」
「ふふっ、素直でよろしい!」

満足げに笑う赤ずきん。
すると、尻もちをついたままでオオカミに手を差し出してきました。

「…?」

これが何を意味するのか分からないオオカミは首を捻ります。

「む〜、起こしてくれたっていいでしょ?」
「…え?あ、ああ…。」

すっかりペースの乱されているオオカミは言われるがままに前足を差し出して赤ずきんの手を引いてあげました。
初めて握ったそれはオオカミよりもずっと小さくて、とてもあたたかな手でした。

「ありがと。オオカミさんの手、ふわふわしててあったかいな。」

嬉しそうに言った赤ずきんに、オオカミは何だかくすぐったい感覚を覚えました。

「でも珍しい毛色。村で見た写真に映っていたのはいつも黄金色のオオカミだったのに。」

赤ずきんはオオカミの手に目線を落としながら、ふさふさのそれを撫でました。
日ごろから気にしていた毛色の話が出たことで、オオカミは少し顔が強張ります。
しかし、そんなオオカミの気持ちを余所に、またも赤ずきんは意外なことを口にしました。

「でも、きみが一番かっこいい!」

オオカミは言葉が出てきませんでした。
それもそのはず、他と違うこの見た目で幾度となく蔑まれてきたのですから。

「わたし、この色好きよ。光に当たると琥珀色みたいで綺麗。」

そう言って微笑む赤ずきんの目も口調も、決してお世辞や嘘ではないということが伝わってきました。
嬉しくて嬉しくて、目頭が熱くなったことを紛らわすように思わずオオカミの手に力が入ります。

「どうしたの?オオカミさん。」
「…なんでも、ない。」

握った手。このまま赤ずきんを食べることはとても簡単でした。
今まで自分を馬鹿にしてきた黄金色の群れのこと、そんな彼らを出し抜くつもりだったこと、それらが頭を過ぎります。
でも、出来ませんでした。

「なぁ、赤ずきん。…名前は?」
「リノアよ。」

―――オオカミは、赤ずきんに恋をしてしまったのです。

「…リノアはこんな森の中を一人でどこへ行くつもりなんだ?」
「おばあちゃんのお家。具合が悪いらしくて、お見舞いに。ここから30分くらい歩いた先にあるの。」
「そうか…。」

オオカミは赤ずきんの手を離しました。

「………気を付けて行ってこい。」
「うん!ありがとう!」

それだけ言うと、オオカミは赤ずきんの前から立ち去りました。

(オオカミさんは怖い生き物だって教わってきたけど、そんなことないんだね。)

そして赤ずきんは、再びおばあちゃんの家へと続く道を歩き始めたのです。



***



立ち去ったオオカミは赤ずきんの少し先を歩いていました。
そして張り巡らされた蔦を噛み切ったり、クモの巣を払ったり、転んでしまいそうな石を掘り出して除けたりと、傍から見れば不可解な行動をおこしていました。
オオカミは赤ずきんが通るであろう道の障害物をひとつひとつ取り払っていたのです。

一定の距離を保ちながら進むオオカミはやがて、少し先に木の家を見つけました。

(あれか、リノアのおばあさんの家は。)

オオカミは周りに危険がないか調べる為に先回りすると、窓から中を覗いてみました。
すると、室内で倒れている人がいることに気が付きました。

「…!」

急いで扉を開けて中へ入ると、明らかに異様な匂いがします。
オオカミは床で倒れている人に近づきましたが、その人はぴくりとも動きません。輝きを失ったブロンドの髪を持つおばあさんを見て、オオカミはうろたえました。
赤ずきんが悲しんで泣く姿が思い浮かびます。

(くそ…っ。)

オオカミは迷ったあげく、おばあさんが頭に巻いていた頭巾を取りました。
そしておばあさんをタンスの中へ運んで隠すと、窓を開けて異臭を逃がし、急いで頭巾をかぶってベッドに潜りました。

それとほぼ同時に聞こえた扉を叩く音。
オオカミは布団を出来るだけ目深にかぶって、自分の出せる限りの高い声を出しました。

「…誰だい?」
「おばあちゃん?わたしよ、リノアよ。お見舞いに来たの。」
「おや、リノア。……来てくれたのかい。鍵はかかっていないから、…入っておいで。」
「はーい。」

ギィと音を立て中に入った赤ずきんは、オオカミが寝ているベッドに近づきました。

(何だかおばあちゃんの様子が変ね。病気のせいなのかな。)

赤ずきんは思い切って尋ねてみることにしました。

「おばあちゃんの耳、すごく大きくなったんだね。」

すると、おばあさんに化けたオオカミが言いました。

「ああ…、お前の言うことがよく聞こえるようにね。」
「それにとっても目が大きくて、まんまる!」
「…か、可愛いお前をよく見るためさ。」
「それに、おばあちゃんの手、こんなに大きかったっけ?」
「そうだよ、大きくないと…お前の手を包んであたためることができないだろう?」

一人でいることが多かったオオカミは会話が苦手でした。
でも必死に言葉を繋ぎ、話し続けました。

「あと、その大きなお口。どうしてそんなに大きいの?」

まさか獲物を食べる為、とも言えないオオカミが返答に困っていると、

「私の孫に何しているのっ!」

そんな声とともに、タンスからおばあさんが転がり出てきました。
先程までのぐったりした様子とは違い、随分とぴんぴんしています。

「おばあちゃん!?」

目を白黒させたリノアを背後に庇うおばあさん。

「レーザーアイ!」

おばあさんが放った目からビームに驚いたオオカミは慌ててベッドから飛び逃げました。露わになったその姿に赤ずきんが声をあげます。

「さっきのオオカミさん…!なんで…!」
「ち、違うんだ、俺は…!」

慌てて弁解しようと試みましたが、追い討ちをかけるように電撃を放つおばあさん。
オオカミは家から飛び出すことでかろうじてその攻撃を免れました。

「私の孫を食おうなんて100万年早いわ!」
「おばあちゃん、待って!話を聞いてあげようよ!」
「リノア、騙されちゃダメよ!」
「でも…っ!」

おばあさんと赤ずきんの会話を聞いていたオオカミは言いました。

「リノア、良いんだ。…悪かったな。」

オオカミは身を翻し、赤ずきんたちに背を向けました。フサフサの尻尾はしょんぼりと垂れています。

(どうせ俺はオオカミだ。誤解を解いたところで…どうしようもない。)

そう思いながら一歩足を踏み出すと、嗅ぎ紛うことなどない匂いに、オオカミの嗅覚が敏感に反応しました。

(…まずい!)

オオカミは振り返ると叫びました。

「リノア!家の中に逃げろ!!」

その声と同時に、茂みから沢山の影が飛び出してきました。
おばあさんは慌ててリノアの手を引き、家の中へ引き返そうとするものの、影はあっという間にオオカミと赤ずきんとおばあさんを取り囲んでしまいました。

「なんて数なの…。」

信じられない光景を目の当たりにし、おばあさんの声が震えます。
影の正体は黄金色のオオカミの群れでした。
そして、群れのボスなのでしょう。中でも一際大きな体格の一匹が言いました。

「よぉ、異端児。何してんだ?」

栗色オオカミは、黄金色のボスオオカミの視界から赤ずきんを隠すように間に立ちはだかりました。

「帰れ。」

黄金色のボスオオカミに毅然と言い放つ栗色オオカミ。

「その言葉そっくりそのままお前に返すぜ。俺はお前のうしろの女に用がある。」
「リノアには触らせないぞ!!」

その言葉を聞いた黄金色のボスはこれ見よがしに噴き出してみせました。

「聞いたか、皆!この異端児、人間の女に熱上げてやがる!」

辺りに黄金色オオカミの笑い声が響き渡りました。

「黙れ!1対1で勝負しろ!」
「クックック…。いいぜ、お前が勝てたら手を引いてやる。ま、どうせまた俺の勝ちだろうけどな。」

栗色オオカミは犬歯を剥きだしにすると、助走をつけるために半歩下がりました。

「お前らは手ぇ出すなよ、そこで見ていろ!」

そして、合図もなく、2匹が同時に飛びかかりました。
ボスオオカミの犬歯が栗色オオカミの肩口に突き刺さり、栗色オオカミの爪がボスオオカミの身体を掠めていきます。
どちらのそれとも分からない鮮やかな赤が地面に散らばり、赤ずきんの小さな悲鳴があがりました。

着地した二匹のオオカミは痛みなど感じていないかのように身体をぶつけ合い、一瞬足を滑らせた栗色オオカミはそのままなぎ倒されてしまいました。
ガブリ、と、先程噛みついた方とは逆の肩口にかぶりつかれ、栗色オオカミから悲痛な声が上がります。
しかしその直後、次は黄金色の二の腕に栗色オオカミの犬歯が刺さりました。
ボスオオカミは激しい痛みに目を見開きますが、お互いがお互いの体に食い付いたまま、決して離すまいと唸ります。

そこにいる誰もがその戦いの行方を静かに見守っていました。
いえ、見守っていたはずでした。
突然その静けさが破られたのです。

「今!」
「赤ずきんを捕えるもんよ!!」

2匹の黄金色オオカミを筆頭に、取り囲んでいたオオカミたちが一斉に赤ずきん目がけて飛びあがりました。

「卑怯だぞ!!」
「何甘っちょろいこと言ってやがる!何の為の群れだと思っているんだ!」

赤ずきんの元に行きたくとも、抑え込まれた体はビクともしません。
栗色オオカミの雄叫びが山全体に響き渡りました。

「リノアーーーーーー!!!!!!」
「ファイアーブレス!!」
「ファイガ!!」

一瞬の出来事でした。なんと、オオカミたちの群れは火の海となったのです。

「な、何だこれは…!?」
「アツっ!アツっ!熱いもんよ!!」

つい数秒前までギラついていた眼はすっかり潤み、皆一様に自分の自慢の毛並みについた火を払うことに必死です。
そう、これはおばあさんと、そして赤ずきんの魔法だったのです。

「く…っ、くそっ!魔法の使えるやつだなんて想定外だ!お前ら撤退するぞっ!」

火は消えたものの、すっかり士気が低下した群れへ叫ぶボスオオカミ。
噛まれた足をひきずりながら「覚えてろよ!」とありがちなセリフを吐いて去っていきました。

「オオカミさん…っ!」

赤ずきんはぐったり横たわったままの栗色オオカミへと走り寄りました。
おばあさんは引き留めようかと口を開きかけましたが、結局何も言いませんでした。
これまでの様子を見ていてこのオオカミは敵ではないと分かったのでしょう。

「ひどい怪我…!」

オオカミの両肩付近から血が流れ、栗色の毛並みは血で黒く染まっていました。

「待ってて、すぐに治してあげるから!ケアルガ!!」

赤ずきんの小さな手からあたたかな光が溢れました。そして、その光が包み込んだ傷口がゆっくりとふさがっていきます。
光が消えると、大きな傷口は見当たらなくなっていました。
オオカミは起き上がると、傷口があった場所を舐めて毛繕いしながら言いました。

「…凄いな。あんた、魔法使えたんだな。」
「喧嘩、止められなくってごめんね。練習以外で使うの初めてだったから怖くって。」
「いや、気にしなくていい。俺が勝手に始めたことだ。」

そんな会話の最中に歩みを寄せたおばあさんは赤ずきんと同じように屈んで、オオカミの頭を撫でました。

「私も、…ごめんなさいね。ありがとう。」
「俺はオオカミだ、あんたがリノアのことを心配するのは当然だろ。」
「そういえば、オオカミさん。結局どうしてあんなことを…。」

オオカミがおばあさんのフリをしていたことを言っているのでしょう。それに思いあたったオオカミは正直に話し出しました。

黄金色のオオカミたちが赤ずきんのことを狙っていたこと。
心配で先回りしたところに、おばあさんが倒れていたこと。
倒れたおばあさんを見たら、赤ずきんが悲しむのではないかと思ったこと。

それを聞いていた赤ずきんはほんのりと頬を染めました。

「わたしのこと、心配してくれてたんだね。うれしい。…あれ?でもじゃあなんでおばあちゃんは…。」
「だって、私。気絶していただけだもの。」
「気絶?そんなに具合悪いの?」
「そんなことないわ。魔法の感覚が鈍らないように自主トレしていたら、うっかり窓も開けずに臭い息吐いちゃって。」

おばあさんは自分の魔法による匂いを思い出して眉を寄せ、それから気を取り直したように話を続けます。

「それで動けなくなったから仕方なくあなたのママに電話したのよ。」
「そう…だったのか。」

オオカミはあの異臭の正体に納得し、全ては自分の取り越し苦労であったことにそっと溜息をつきました。そしてすっかり力を取り戻した足で立ちあがると、赤ずきんたちに背を向け言いました。

「あんたに会えて良かったよ。ありがとな、…リノア。それから二人とも、迷惑掛けてすまなかった。俺はそろそろ行く。」

その表情は見えませんでしたが、とても寂しそうな声だと赤ずきんは思いました。
そして同時に、赤ずきん自身も寂しいと思っていることに気がつきました。

「オオカミさん…、行っちゃやだ。」

気づけば赤ずきんはオオカミの尻尾の毛を摘まんでいました。
そんな赤ずきんの行動にオオカミは嬉しくなりましたが、その気持ちを振り払うように首を横に振りました。

「…俺はオオカミだ。一緒にはいられない。それに、最初は俺だってあんたを……食うつもりだったんだぞ。」
「それなら何で?何で助けてくれたの?」
「それは…。」

オオカミは言い淀みました。しかし、これも最後だと思い、顔を背けたままで言いました。

「あんたを…リノアを好きになってしまったからだ。」

赤ずきんは目を見開きました。そして「それじゃあ俺はこれで」と言って去っていこうとするオオカミの前に回り込むと、ぎゅっと抱きつき、

「…オオカミさん、わたしもね、だいすきだよ。」

そっと口付けたのです。
すると、突然オオカミは眩い光に包まれました。

赤ずきんもおばあさんもあまりの眩しさに思わず目を瞑りました。
しかし次に眼を開けると―――なんということでしょう。先程そこにいたはずのオオカミの姿は影も形もなく、代わりに一人の男が現れたのです。
その男の髪はあの印象的な色。太陽の光によって琥珀色にも見える、栗色でした。

「オオカミさん…!」
「そうだ…思い出した…。俺、小さい頃に出会った魔物に魔法をかけられて…。」

そう。あのオオカミは実は人間だったのです。
男は昔の感覚を取り戻すように両の手を握ったり開いたりしました。
すると、感極まった赤ずきんが勢いよく男に飛び付きました。

「うわっ!?」
「やった〜!」

男は戸惑いながらも、赤ずきんの身体をしっかりと抱きとめました。

「ねぇ、名前は?覚えてる?」
「…スコール。俺の名前は、スコールだ。」
「スコール…、スコール!」

呼ばれた名前に懐かしさを覚えながら、男―――スコールは微笑むと、

「ほんまどうなることかと思ったわ〜。」
「!?」

突然聞こえた第三者の声に、抱き合っていた二人はびくりと肩を揺らしました。
茂みから、ビデオカメラを片手に携えた赤ずきんの母親が現れたのです。傍にはもちろん父親もいます。

「えっ、ママ!?パパ!?」

スコールは慌てて赤ずきんと距離を取りました。

「初めての一人旅だからね〜、ビデオチャンスを逃したらあたしの名が廃るってもんやろ〜?」
「も、もうっ、それなら早く助けてよ!」
「リノアが強い子だって稽古してたあたしたちが一番分かってるからね〜!そ、れ、に。」

母親はにやにやとしながら言いました。

「あたしたちが手出してたら、こんなにイケメンな野生の王子サマとハッピーエンドになることもなかったでしょ〜?」

これには赤ずきんもスコールも顔を赤くして黙り込むほかありません。

「おかげで良い画が撮れたわ〜。」

今までのことが全てビデオにおさめられていたのかと思うと、たまらず赤ずきんは再びスコールへ抱きついて、逞しい胸に顔を押し付けてしまいました。スコールは赤ずきんの両親の手前、抱きしめ返すことも出来ずに腕のやり場に困っています。
そんな二人を見た父親はしくしくと泣きながら、愛する妻を抱きしめました。

「うっうっう、僕のかわいい一人娘が…。」
「どさくさに紛れて何してんの、アービン。」

赤ずきんはスコールに抱きついたまま、顔だけを両親へ向けました。

「あのね、ママ、パパ。彼も…、」
「もちろん、一緒に帰っておいで。」

娘の言わんとすることを察したのでしょう。母親はにっこりと笑いました。

「ほんと!?」
「リノアの王子サマやもん。大歓迎!」
「聞いた?スコール!これでずっと一緒に居られるね!」

あれよあれよと進む話にスコールは申し訳なさそうに眉を寄せました。

「で、でも俺…。」
「わたしと一緒に居るの、イヤ?」
「そんなことあるわけないだろ…!」

スコールの言葉に母親が大きく頷いてみせました。

「そうだよね〜、だってオオカミ君、出会って早々にリノアに恋してさ〜、リノアを見送ったあとも心配で先回りなんかしてさ〜、通り道にある邪魔になりそうなもの掃ったりしちゃってさ〜、ぞっこんだもんね〜?」
「…そ、それはっ!!」

他人が知るはずのないエピソードをカミングアウトされたオオカミはたじろぎました。

(ひ…人の匂いなんかしなかったはずなのに、一体どこに隠れて…!)

「そっか…!途中から道が通りやすくなったと思ったら…そういうことだったんだぁ…。」

さぞ嬉しそうに瞳を輝かせる赤ずきんに、スコールは目を逸らすことしかできません。
そんな様子を見かねたおばあさんがやれやれと口を開きました。

「リノアもスコールもお互いが一緒に居たい、それなら話は簡単じゃない。」
「だけど突然出てきた俺なんかに…。」
「何言ってるの?貴方には責任とってもらわなくちゃならないのよ?」
「そうだよ、スコール。」

頷く赤ずきんにはおばあさんの言った言葉の意味が分かっているようです。一人話の流れについていけないスコールは不思議そうに首を捻りました。
恥ずかしそうに頬を朱に染めた赤ずきんは上目使いでスコールを見つめます。

「だって、…もう食べられちゃったんだもん。」

赤ずきんは背伸びをすると、すっかり人間らしくなったスコールの耳に口を寄せて囁きました。

「わたしのハート。」

スコールの顔は、真っ赤なずきんに負けないくらい赤く染まりました。
そして二人は、あたたかい人たちに見守られながら、末永く幸せに暮らしましたとさ。







おしまい





(何かしら、リア充二人組に囲まれたこの損な役回り…。しかも…お婆さん…。)
(先生はいいじゃん、まともな役があるだけ…。オレ、一言だぜ…。読者が誰も気づかないような一言しか言ってないんだぜ…。サイファーだってもう少し喋ってるのによぉ…。)


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