騎士祭 作品 | ナノ

 eternally 〜子供〜




20歳になったスコールは、これからもガーデンの指揮官として働いていく道を選んだ。彼なりにどうやったら私たちにとってベストなのかを一生懸命模索してくれた結果だ。
私は、魔女だけど、それ以前にスコールの恋人であり、これからも願わくばずっと一緒にいたいと思っていた。だから、スコールに「一つ区切りもついたことだし」とプロポーズされた時は、信じられないほどに嬉しかった。まぁ、このプロポーズ秘話はまた別の機会にでもお話できたらいいな。

結婚するにあたって新居を構えようと思ったのだが、スコールのいない間に私に何かあったら困るということで、結局バラムガーデンに住まわせて貰う事になった。
シドさんたちの好意で、空き部屋を改装してとても広くて素敵な部屋を用意してもらったので、私は大満足だった。
使われる側から使う側に変わったスコールは、外に出ることは少なくなったが、内勤の仕事が多いので、ガーデン内にいても帰ってくるのが遅くなることが多かった。

私はというと、魔女の力を使って年少クラスの子供たちに授業をしたり、オダイン博士の研究(危なくない範囲でとスコールの監視付きで)に時々手を貸したりして過ごしていた。
お互いに忙しく生活していたが、順調に愛を育んで・・・(っていうとなんだか恥ずかしいけど、)結婚して初めての春ごろに妊娠が発覚した。

初めは自分のお腹の中で人間が成長しているなんて信じられなかった。
妊娠が発覚した当初はいろいろ大変なこともあったけれど、励まして力になってくれる仲間たちと何よりスコールのおかげで、産むという選択肢が出来たことをとても感謝している。
幸い、悪阻も軽く妊娠時のトラブルもないまま安定期を迎えることが出来、日に日にポッコリと出てくるお腹を見ると、ああ自分は母親になれるんだなと嬉しく感じた。
こんな人並みの人生を送れるという希望と不安が心地よい幸せになりつつあった。




*eternally*





今日は、スコールの誕生日。
以前とは違って、イベント時はなるべく休みがもらえるようになっていたが、今日は生憎急な任務のため、帰宅が遅くなるとの連絡があった。
代わりに明日は一日休暇をもらえたので、久々にどこかに行こうかとスコールが言ってくれた。
妊娠してからというもの、外出許可もあまり通らず、ガーデン内に籠ってばかりだったのでこのデートは本当に嬉しい。

せっかくの誕生日なので、私は頑張ってローストビーフとチーズケーキを作った。
結婚してからというもの、せめて簡単な料理でもいいからと夕食作りは欠かさずにした。そのかいもあってか、見た目は相変わらず悪いけど、基本的な物はだいたい出来るようになった。
最初は、引きつった笑顔で「美味しい」と言ってくれていたスコールも、今では「見た目はいまいちだが、味は凄く美味しい」と褒めて(?)くれるようにまでなった。(正直でいいんだけどちょっと失礼だと思わない?)
そのほかのご馳走は食堂のおばさん達のご好意に甘えて頂いてきた。内緒でちょっとつまんでみたらすんごい美味しくて、スコールが帰ってくるのが益々楽しみになっちゃった。

時刻はすでに20時。
遅くても20時には帰ってこれるとスコールが言っていたので、もうすぐだろう。
そう思いながら、私はダイニングテーブルにゆっくりと腰かけ、一息つく。
妊娠5ヶ月に入ったお腹は少し目立つようになり、長時間立っていると疲れてしまうようになった。
でも、胎動も増えてきて、前はちゃんと生きてるのかな?と不安になったりもしたんだけど、今は動くたびに、ああ・・・本当に自分の中で小さな命が成長しているのだと実感できる要素の一つになっていた。

私は、側の引出の中からフォトブックを取り出すとゆっくりと開く。
赤ちゃんのエコー写真。普通の妊婦とは言えない私は、検診と出産をエスタの最先端医療設備が整っている病院ですることになっていた。
これはまあ、致し方ないことだと諦めていたが、良かったなと思ったのは、エコー写真の鮮明さ。もう少し月齢が進むと3D映像で動いている赤ちゃんを見せてくれるらしい。
そして、やり過ぎではないかと思ったが、媒体にこのエコー動画を纏めて、出産後にプレゼントしてくれることになっている。
まだ先の事だが、妊娠してからというもの、楽しみがどんどん増えていった。
エコー写真に目をやると、初めて検診したまだ胎嚢しか写っていないものを先頭に、心拍確認が出来しっかり胎嚢の中にいる数センチの白い影、やっと頭と手足がなんとなく見えるようになってきたもの、様々な内臓器官が形成されてきたのが分かる写真が一個のフォトブックに入っている。
まだページがたくさんあるのでこの先、生まれるまでの成長記録を入れられる。これもすごく楽しみ!

不意に、コツコツと足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。
ここは、みんなの寮からは少し離れた場所にあるので、この足音の主は確実にこの部屋にやってくる。
私は逸る思いで玄関まで行くと、大きく息を吸った。近くの壁にかけてある鏡に向かってとびきりの笑顔を向けると、息を吐き、扉を見据えた。
ドアキーが解除される音がし、扉が開く。
私はもう待ちきれなくて、入ってくる人が誰なのかも確認せずに飛びついた。

「・・・っ!リノア!」
「えへへ、びっくりした?」
「あたりまえだろう。それと、もう一人の身体じゃないんだから急に飛び掛かるのはやめてくれ」
「大丈夫だよ。気を付けてるし、スコールだってわかってるから」
「まったく・・・」

そう言って、スコールは私に注意しつつも、然りと抱きとめてくれた。
久しぶりの温もりと匂いに、一気に安心感が募る。それは、スコールも同じなようで、心音が心地よい。

「スコール、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
「私ね、頑張ってご馳走作ったんだよ!」
「そうなのか、嬉しいよ。すまないがリノア、食事の前にシャワー浴びてきてもいいか?」

スコールは妊婦の私に気遣ってくれてか、最近は外の任務後にはすぐシャワーを浴びてくれていた。
さらに、カドワキ先生に、「変な菌をリノアに移さないように部屋に入る前は服を払ってから入るんだよ!」と言われたらしく、いつも律儀にそれを守っていた。初めてその行動を目撃した時は、スコールが潔癖症になっちゃったのかと、私、驚いちゃった。でも、私と赤ちゃんの事をそれだけ思ってくれているんだよね。

そんな幸福感を感じつつ、私が一つ謝ると、スコールは首を横に振り、「俺もリノアに会いたかった」と言ってから浴室に入って行った。多分、スコールは無自覚なんだと思うけど、時折見せてくれる優しい穏やかな表情が私はたまらなく好きだ。

「よしっ!私はご飯の用意しなくちゃっ!」

緩みきった顔を引き締めてから、温めるだけにしておいた料理たちを皿に盛りつけ、テーブルに順々に並べて行った。
結婚して初めてのスコールの誕生日、そして、二人だけで過ごす最後の誕生日。
そう思うと、無性に写真に残したくなって、私は綺麗にセッティングしたテーブルをカメラに収めた。
こんな風にまた思い出が一枚一枚増えていくんだね。

準備が整ったので、椅子に座る。お腹が膨らみ始めてからというものの、どこかに座ると必ずと言っていいほどお腹に手を添えてしまう。
大切で愛おしくて壊したくない、私たちの愛の結晶が自分の中ですくすくと成長していってくれてる。
時々不安で怖くなることもあるけど、こうやってさわると、(大丈夫だよ、ママ)と励ますかのように胎動が感じられる。

「あー、早くあなたに会いたいよー!」
「今産まれたら困るだろ」

ちょうど浴室から出てきたスコールが背後からなんとも夢のない突っ込みを入れてきた。
そんな彼を一瞥したのち、「パパは本当に現実的ですね〜」と再びお腹に話しかけると、スコールは苦笑した。

「きっと俺にそっくりな子になるよ」
「無愛想な?」
「「わるかったな」」

私がそうからかって言うと、スコールは少し笑みをこぼす。
「最近、笑顔が増えてきたのよ。パパになるからかしら」と、キスティスが言っていたのを思い出した。私より先にスコールの研究に携わっていた彼女が言うのだから、この変化は劇的な物なのだろう。
そんな事を陰で話されているなんて露知らず、スコールはガシガシと少し乱暴に頭を拭きながらこちらへ歩み寄ってくる。


「もう、動いてるのが分かるのか?」
「うん、ぴくぴくぴくってお腹の中で動くの!触ってみる?」
「ああ」

スコールはしゃがみ込み、私のお腹に手を当てて真面目な顔で凝視する。
なんだかその必死さにおかしくなっちゃって、私は心の中でばれないように笑った。

「あっ!今!今動いてるよ!」
「わからないぞ」
「じゃあ、耳を当ててみなよ」

そう言って私はスコールの頭をお腹に引き寄せる。
ああ、なんだかこの情景・・・本当に理想だな。
いつか本で読んだ素敵な家族のワンシーンの中にいるみたい。
―と、またお腹の中で微かに動く。

「リノア!なんか・・・なんか、いるぞ!」
「あたりまえでしょ!」

自分のお腹に耳を当てながら突拍子もない事を言い始める旦那様に、今度は私が盛大な突っ込みをいれながら、とっても、とぉーっても幸せな気分になった。
必死になって胎動を感じようとしているスコールの顔が真剣で何度も笑ってしまいそうになったけれど、この時間を終わらせたくなくて我慢した。


そんな幸せな空気を裂くように、突然、スコールの携帯が音を立てて振動する。
一瞬、スコールは怪訝な表情で携帯を見つめた後、立ち上がり、電話に出た。
そして「・・・ああ、ありがとう。助かるよ」
と、短い会話を終えると通話前とは違ってえらく機嫌がよさげだ。

「お仕事・・・?」
「いや、明日、学園長がエスタに用事があるらしくついでに俺らを下してくれるってさ」
「わっ、ラッキー!じゃあ、明日のデートはエスタで決まりだね!」



それから私たちは、席につき、食事を取りながら本当に他愛もない会話をした。
「セルフィとキスティスがね、毎週のようにベビーグッズを買ってくるんだよ」とか、「こないだゼルが、私のお腹を触らせてくれって来たんだけどね、結局、なんかスコールのいない間に触るのは気がひけるって帰っちゃったの」とかほぼ一方的に私が話していたけど、スコールはけして退屈そうではなく、うんうんと相槌を打ちながら楽しそうに聞いてくれていた。
それから、ローストビーフだけは私が作ったのだのだと告げると、スコールったら「どうりで美味しいと思った」なんてちょっと大げさに言うんだよ。なんだかおかしいでしょ?
そんな楽しい食事を終えると、片付けをするために席を立つ。が、スコールに制止されてしまう。

「いいよ、俺が後片付けする」
「スコールは誕生日なんだからゆっくりしてて?」
「リノアは妊婦だろ?」
「でも・・・」
「いろいろ準備してくれたんだし、リノアこそゆっくりしてろ」

結局、頑ななスコールに根負けして、私は片付けを任せることにした。実際、少し張り切りすぎて疲れてしまっていたので助かったんだけどね。でも、なんだか複雑な気分だった。
すっかり手持無沙汰になってしまった私は、リビングのラブソファに腰かけ、マタニティ雑誌を開いた。
妊娠中のトラブルから出産準備、赤ちゃん用品、可愛いマタニティ服などの乗っているこの雑誌を見ていると、明日エスタで衝動買いしてしまいそうな自分がいた。
出産準備は早めにした方がいいって言われたし・・・と言い訳をしながら、散財する覚悟で買いたいものをリストアップしていると、片付けが終わったスコールが隣に腰かけた。

「疲れたから膝貸してくれ」
「えへへ、ご苦労様であります指揮官殿!もう少しするとお腹が大きくなって出来なくなちゃうから、今のうちに存分に堪能したまえ!」

そんな私の冗談に構うことなく、スコールは太ももに頭を置いた。
なんか反応が欲しかったなぁ。と、むくれつつも、安心しきった顔で私に身を預けるのを見てしまうと、怒る気になんて到底なれなかった。

「スコールちゃーん!」
「なんだその言い方は・・・」
「うふふ、だってなんだかスコールが子どもみたいなんだもん」

そう、からかうように言うと、スコールは上体を起こし、私の頬にそっと手を添えた。

「リノア、あんたもそのお腹にいる子供も、必ず幸せにしてみせるからな」

まっすぐな眼差しで、一寸の迷いもなく発せられた言葉に、私の瞳から自然と涙が零れ落ちた。
嬉しくて、幸せで、いつまでもこんな日々が続いてて欲しいと、もういっそこのまま時が止まればいいと思えるほどに、何物にも代えられないこの感情。
だから、私も、とびっきりの笑顔で応えるの。

「ね、スコール。私も・・・私もスコールとこの子を一生幸せにするから、だから、覚悟しててよね!」

右手をスコールの頬に、左手を自分のお腹にやりそう伝えると、一瞬驚いたような顔をしてから彼は「ああ、期待してるよ」と少し挑戦的な笑みを浮かべた。




貴方に出会えてホントによかった。
この世に生まれてきてくれて、そして、私の傍にいることを選んでくれてありがとう。





この先も一生、心から愛してる。













Fin.



Happy Birthday squall !!!




お題:子供
Written by.macaron なつきさま

Squall's Birthday2013
「騎士祭」提出作品


お題配布元:FF8 Character's Party

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