酷暑のせいもあってか、最近のバラムガーデン内には怠惰した空気が流れていた。
そんな空気をいち早く感じ取ったセルフィは、何とかせねば…!と奮起するが、生憎自分も任務に追われる身、中々打開策を見出せなくてヤキモキとしていた。
「ねーアービン、このままじゃダメだと思うでしょ〜?」
「う〜ん…そうだねぇ」
学食の片隅で作戦会議をするセルフィはいつになく楽しそうだ。そんな彼女の姿を見て、嫌な予感を感じつつもニヤけてしまう自分がいてアーヴァインは複雑な心境だった。
「何かみんなに笑顔とやる気を与えるような、パァッ!っとしたイベント事をだねーやりたいのですよっ!」
「そう言われてもね〜。近々のイベントってスコールの誕生日くらいしか思い浮かばないけど〜」
「それだ…!」
口走った瞬間、アーヴァインはマズッタ…!と口を塞ぐが、時すでに遅し。セルフィは名案が思い浮かんだとばかりに立ち上がり、人差し指を此方に向けている。アーヴァインの脳裏にスコールの怒りの形相と愛しい彼女の笑顔が交互によぎった。
「せっ、セフィ?流石にスコールの誕生日にイタズラしたら…」
「だいじょーぶ!だいじょーぶ!あたしに任せときって!」
「うーん…(いっ、嫌な予感しかしないんだけど〜)」
こうして、スコールの誕生日サプライズが刻々と準備されていくのであった。
☆爆発★
教室から一歩外に出るとムッとした熱気が襲ってくる。空調の調子が悪いらしく、この温度差にはまいってしまう。
幸い、週明けには修理されるとのことでそれまでの我慢なのだが、冷房のきいた教室から出た瞬間が特に厳しい。
「暑いなー」
リノアは年少クラスの授業を終え、次の空き時間を図書室で過ごそうと足早にエレベーターホールへと向った。
スコールの誕生日にケーキを作ろうと計画しているので、早めにレシピを探して上手く作れる様に練習したい。そんな気持ちがより一層足を早めさせる。
「あっ、リノア!やっと見つけたよー!」
近づいてくる聞き慣れた声に、リノアは険しい表情を一変させ笑顔で親友の所へ歩み寄った。
「セルフィ!久しぶりだねー!」
2人は会えた嬉しさに手を取り合って小刻みにジャンプする。
こんな仕草はまだあどけない十代のそれで、その様子をたまたま遠くから見ていたシド学園長は笑みを零した。
「ねっ!スコールの誕生日、何か予定してる?」
「ケーキ作って一緒に食べようと思ってたんだけど…何で?」
「最近の暑さでガーデン内に活気がないと思わへん?」
「うーん、そうだねぇ」
「そ、こ、で…!スコールのサプライズバースデーパーティをしようと思うんだけど!で、その様子をみんなに見せて元気をだしてもらうの!」
「ええっ!」
突拍子の無い事を言い出すセルフィに、リノアは驚きと不安を隠せなかった。いや、セルフィを信じていないわけではないが、折角の恋人の誕生日を気まずい空気で過ごしたく無いと言うのが本音だ。
「大丈夫やって!リノアがいれば何とかなるからっ!」
「でっ、でも…」
「このバラムガーデン助けだと思って協力して?ねっ?ねっ?」
「うーん…」
お世話になっているこのガーデンの為、親友の頼み、そして恋人…いろいろな物を天秤にかけた結果、リノアはセルフィの案に乗ることにした。
「スコールもみんなの為ならきっと許してくれるよね!」
「うん!きっとだいじょーぶ!楽しい誕生日になるよ〜!」
そんな楽しそうな二人に、先ほどから様子を窺っていたシド学園長が歩みよってきた。
「スコールの誕生日パーティーをするんですか?」
「あっ!学園長、案が纏まったら許可をもらいに行こうと思ってました」
「あなたたちを信じているのでどうぞ好きにやってください。私に許可を求める必要はありませんよ」
「わー!さっすが!ありがとうございます〜!」
こうして、スコールにとって生涯、忘れることの出来ない誕生日パーティーの計画が刻一刻と進められていくのであった。
*
そして、今日は待ちに待った8月23日。
前日までの激務を終えたばかりのスコールは、自室で寝ていた。
普段は自分より遅く起きるはずの彼女がコソコソと隣から抜け出し、部屋を出ていくので疑問に思ったが、珍しく睡魔に勝てそうになかったので、欲求に従い眠ることにした。
もう何時くらいだろうか、久しぶりによく寝た気がする。
さすがにもう起きようと身体を動かし、スコールはサイドテーブルに置いてあったミネラルウォーターを口にした。常温になっていたが、寝起きの体に染み渡る感覚が気持ち良い。
そんな風にまだ寝ぼけ眼で思っていると、扉の開く音が聞こえた。
入ってきたのはいつもの白いタイトなドレスに身を包んだリノアだった。
「おっ!やっと起きたなネボスケくん!」
スコールの姿を見るや否や、リノアは手をひょいっとあげておどけて見せた。
「なんでドレスなんか着ているんだ?」
「あっ!ドレスなんかとは酷い!だって、これからスコールの誕生日パーティーだよ?おめかししなきゃでしょ?」
でしょ?もなにも、自分の誕生日パーティーがあることなんて初耳なんだが・・・スコールは心の中でそう思い、一つ息を吐いた。
「だからコソコソと出て行ったのか」
「もしかして、さみしかった?」
そんな彼女の可愛い問いかけを無視し、スコールはベッドから腰を上げると、リノアとの距離を詰めた。
「ああ、さみしかった。だから、リノアがキスしてくれないとパーティーには行けそうにない」
「えっ・・・!」
「ダメか?」
「ダメじゃない・・・けど」
そう言って、目を泳がせながら戸惑うリノアの顎をクイッと持ち上げ、スコールは口づけを落とした。
腰と頭に手を置き、逃げられないようにすると深く深くキスをする。
スコールは知っていた。
リノアはせっかく綺麗に塗ったグロスが落ちるのが嫌でキスを嫌がった事を。
そんなものに自分は負けたのかと思うと、無性に腹が立ち、もっと意地悪がしたくなる。
「つづき、するか?」
「!?」
やっと解放されたかと思えば、挑発的な笑みを向けてくるスコールに、リノアは赤面した。
呼吸を整え、キッと抗議の視線を送れば、自分のグロスがスコールの唇について光っているのが見え、余計に恥ずかしくなる。
「もうっ!スコールのバカ!早く拭いてみんなのところに行こう!」
「仰せの通りに、お姫様」
「ブリザド!」
「うわっ!!!」
リノアをからかい過ぎたスコールは頭に氷を落とされ、半ば意識を朦朧とさせながら食堂へと引っ張られていくのであった。
*
『ハッピーバースデー!スコール!』
食堂の扉を開けると、キスティス、シュウ、ゼル、アーヴァイン、そしてカメラを構えたセルフィが待ち構えていた。
輪飾りで室内が装飾されているのにもかかわらず、テーブルの上に恐らくリノア作の(見た目的に)ケーキだけがポツンと置かれている。
スコールはこの時点で少し嫌な予感がしたが、まだ先ほどのリノアの攻撃で頭が回らなかったのでそんな事はどうでもよく、とにかくいち早くケアルガをかけて欲しかった。
「スコール、行こう!」
「あっ、ああ・・・」
リノアに手を引かれ、席に着かされると、なぜかみんなが自分から離れていくのに気づく。
スコールはやはり嫌な予感がして立ち上がろうとするが、リノアの手が両肩を抑えているため動けない。
「リノア・・・?」
「ね、スコール、私とセルフィでケーキ作ったの!」
「そうなのか・・・(怪しい!絶対に怪しい!)」
「ロウソク、ふーっ!ってして?」
(こっ、断れない・・・!)
みんなの好機の目が自分に集められているのが嫌でも分かる。
スコールは額に手を当て首を振ると、意を決して目の前のケーキを見据えた。
クリームが、これでもか!と大盛りに塗りたくられたソレは2人には悪いが、到底食べられる気がしない。
オマケになぜか爆発しそうな雰囲気を醸し出している。
「まさかな…」
「ん?なんか言った?」
「いや、吹き消せばいいんだろ?」
「うん!」
背後のリノアはとても楽しそうで、スコールはこの先のきっと些細な事は許そうと心に決めた。
そして、息を大きく吸い込んで、ロウソクを吹き消した。
ドッカーン!!!
刹那、セルフィの「ポチッとな!」の声を聞いたと同時に、なんと、信じられ無い事に、ケーキが爆発した。
ドッカーンという効果音は大げさではなく、本当に音を立てて色々な物が飛び散ったのだ。
スコールは一瞬、自分の身に何が起きたのか理解出来なかった。
ただ、仲間の笑い声に、これは仕組まれていたものだと気づく。
「リノ・・・ぶっ!」
「あっ、酷い!」
スコールは背後にいたリノアに状況を説明してもらおうと振り返った。
するとそこには、自分と同じく生クリームまみれになって慌てふためくリノアの姿があったのだ。
(なんであんたまで巻き添え喰らってるんだよ・・・)
スコールはリノアの姿に和まされながらも、自分はもっと大惨事になっているのだなと思うと、怒りがふつふつとわき上がってきた。
そして、先ほどから近くでカメラを構えながらうろちょろしているトラブルメーカーに問いかけた。
「セルフィ、そのカメラはなんだ?」
「あっ、これ?我らが指揮官の休日をガーデン生に配信して元気とやる気を与え、この暑さを乗り切って貰おうと思った次第であります〜!」
セルフィの言葉が終わるのと同時に、スコールは目にもとまらぬ速さでビデオカメラを奪い取り、床に叩きつけた。
ガシャンという音とともに、破片が飛び散り、一つの無機物の人生は幕を閉じた。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!!班長酷い!あたしの思いで!あたしの生きがい!」
「すまない、手が滑った。ああ、そういえばアーヴァインが最新型のビデオカメラを買うって言ってたぞ」
「えっ?ホンマ?アービンさすがやわー!」
暫く、どうにか直らないものかと床に座り込んでいたセルフィだが、スコールの言葉を聞くと一目散にアーヴァインのもとへと駆けて行った。その時、恨めしそうな顔をしたテンガロンハットが目に入ったが、当然スコールは無視をした。
次にスコールは、テーブルの下に身を隠していたゼルのもとに足早に向かい、引きずり出した。
「ゼル、かくれんぼか?」
「あっ、嫌・・・そのだな、スコール。話せばわかる!話せばわかるから・・・!」
「そうだな・・・じゃあ、週明けの任務、俺と変わってくれるよな?」
「えっ?」
「変わってくれるよな?」
「あっ、はい」
スコールの禍々しいオーラに逆らったら斬られると察したゼルは、任務交代の交渉を飲むしかなかった。だが、週明けの任務とは【モルボルの調査】だという事を、この時のゼル君はまだ知る由もないのである。(モルボルの調査とは、分布地に赴きひたすらモルボルを狩ってその内臓や部位を持ち帰ってくるという苦行です)
スコールは茫然としているゼルを横目に、SeeDの素晴らしき先輩であるシュウのところへ向かう。
「やあ、スコールくん。ご機嫌はいかが?」
「おかげさまで最悪だ」
いまだにクスクスと笑っているシュウにスコールは近づくとこっそりと耳打ちをする。
「(ニーダとこの前デートに行ってただろ)」
「なっ、なんの事かしら?」
「もうみんなとっくに勘付いてるぞ」
「えっ、えー!!!!!!!!!」
いつも凛々しいシュウも一人の女の子だったようだ。顔を真っ赤にさせその場にへたり込んでしまった。
そして最後に、この一連の様子を見ても尚、口に手を当てながら笑っているキスティスのところにスコールは近寄ると、そっとブレス〇アを差し出した。
「なっ、なに?」
「使うだろ?」
その瞬間、キスティスはすべてを察したようだ。スコールから問題の物を奪い取ると、三粒ほど一気に口に放り込んだ。
こうしてスコールの細やかなるお礼回りは終わり、事の成り行きを止めるべきかと悩んでいたリノアのもとへ戻る。
「リノア、帰るぞ」
「でっ、でも・・・」
「全身べたべたで気持ち悪い。あんたもそうだろ?」
「うん・・・」
お互いに生クリームまみれになった姿を改めてみると、やはり可笑しくなって笑い合ってしまった。
「最高の誕生日だよ」
「もう!ごめんってば!」
「まあいいさ。一緒に風呂に入って綺麗にしてもらうから」
「えっ?」
「ダメか・・・?」
「ダメ・・・じゃないですぅ」
こうして、スコールは楽しい楽しい誕生日を過ごすのでした。
おしまい
お題:爆発
Written by.macaron なつきさま
Squall's Birthday2013
「騎士祭」提出作品
お題配布元:FF8 Character's Party様
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