「それにしても今日はまた一段と見せつけてくれたね。」
お決まりのメンバーでの他愛もない会話。
天気がいいので、いつもの教室ではなく裏庭の芝生まで足を運んでいた。
そんな暖かい日差しの中で過ごす昼休みに、俺を苛立たせることを知ってか知らずか、のんびりとした声が切り出した。
「…アーヴァイン。」
威圧するように、俺は低く相手の名を呟く。
そんな俺を"どうどう"と宥めるアーヴァイン。
「リノア、女優もびっくりの名演技だったじゃないか〜。」
「でしょ?でもやっぱりアーヴァイン達にはバレバレだったかぁ。」
「またまたごちそうさまでした〜。」
売店から戻ってきたセルフィも話に割り込んできた。にんまりと口角をあげながら、買ってきたパンを片手に俺たちの隣に腰を下ろす。
「あ。リノア、それってもしや。」
リノアの携帯。そこに取り付けられた今朝までなかったはずのキーホルダーにセルフィが目をつけた。
「えへへ、スコールにねだって取ってもらっちゃったんだ。」
嬉しそうに話すリノア。
もちろんこの顔が見たくて、あれを取ったわけなんだが……。こんな展開になるとどうも恥ずかしさが優先して居心地が悪い。
でもたったあれだけのことで彼女が喜んでくれるのなら、やっぱり何度だって繰り返してしまうのだろう。
そうこう考えていると、リノアが俺のシャツの裾を引っ張ってきた。
ああ、ハンバーグか。
何かをうったえてくる輝かんばかりの目から彼女の気持ちを汲み取ると、鞄から二つの弁当箱を取り出す。その内の一つ、彼女専用の方を差し出すと嬉々して受け取るリノア。
すぐに蓋を開ければ、中のハンバーグに目を奪われている。
「いつ見てもはんちょのお弁当美味しそ〜。」
「美味しそう、じゃなくて美味しいの!」
「意外なスコールの特技だよね〜。」
特に手が込んでいるわけでもなく、シンプルな中身。だが、味は確実。そんな弁当をアーヴァインとセルフィが羨ましそうに見つめる。
「そりゃあ昔からリノアにねだられていたら、上手くもなるさ。」
「ふふ。いつもありがとうございます、スコール君。」
いただきます、と手を合わせながら俺に目を向けるリノア。
どういたしまして、と応える俺。
そんな俺達のやりとりを見ていた二人は相変わらずニヤニヤとしていて、早々と食事を済ませると「邪魔者は退散〜!」と言いながら裏庭を去っていった。
―リノアに何か耳打ちしてから。
***
…あの二人、何かろくでもないことを言ったに違いない。
お弁当を頬張りながら、時折こちらの様子を伺うリノア。その顔は見事な百面相。
やっぱりリノアに対する勘は良いんだ。
ようやく意を決したリノアから、俺はとんでもない言葉を聞くことになる。
「――スコール。はい、あーん。」
箸で摘んだハンバーグを差し出すリノア。
もちろん差し出した先は俺。
「………………」
無言で固まってしまう。
いくら人がまばらな裏庭とはいえ、校内であるということに抵抗がないわけもなく。
対するリノアといえば、頬はほんのりと紅く染めて俺が口を開くことを待っている。
俺にとっては永遠にも感じるようなその時間。
やがて俺が出した答えは…言わなくても分かるだろう。
あの二人の思い通りにするのは癪に障るが…。
(そんな顔されたら断れないに決まってる)
END
「わあ、ホントにやったよ〜、あのスコールが!」
「やっぱリノアがはんちょの弱点だよね!良いネタ撮っちゃった〜。」
ビデオカメラを構えた二人が、植木の陰からしっかり見ていたとか見ていなかったとか。