遅刻を告げるチャイムの5分前。
わたし達はクラスメイトに挨拶を交しながら、余裕の足取りで席につく。
「リノア〜、まみむめも!」
椅子に腰掛けて鞄の中身を取り出していると、駆け寄ってきたのはわたしの親友。髪の外ハネが印象的な元気が取り柄の女の子だ。
「今日もはんちょと登校?仲良きことは美しきかな〜。」
「も〜。朝からからかわないでよ、セルフィ。」
ニシシと笑うセルフィに苦笑まじりで呟いた。
ちなみに彼女の言う“はんちょ”とはスコールのこと。新年度の席替えで彼と同じ班になったセルフィは、班が変わった今でもその当時の役割名で彼のことを呼び続けている。
「リノアってば顔赤〜い。」
楽しそうな親友の表情に思わず自分も破顔する。
そんなわたしにセルフィが突然こっそりと耳打ちしてきた。
「ところでさ、リノア。ちょーどさっきみんなと二人の話してたんだけど。」
「朝から何話してるのよ、みんなしてー。」
「やー、はんちょって無愛想で有名じゃない?そんなはんちょも二人きりの時ってどうなのかな〜ってね。」
「ど、どうって…。」
興味津津の彼女に躊躇う。こういう時のセルフィは話を逸らすこと許さないから厄介だ。それを知るわたしは、少し間を置いてから答えた。
「二人の時はスコール…いつも以上に優しいし、それからね、可愛いの。一緒にいると凄く幸せな気持ちになる、よ?」
俯いて、ぽつりぽつりと零した言葉に自分でも恥ずかしくなる。渋々話し始めたはずなのに、一度言葉に出すともっともっと話したくなってしまうのは恋する乙女の性なのか。
顔が、熱い。
ごちそうさまでーす、と肘でつついてくるセルフィのせいで尚更。
そこでようやく鳴り始めたチャイムに、彼女はニヤけた顔のままで自分の席へと戻っていった。
後に残されたのは真っ赤な顔のわたし。
そしてその隣で、わたしと同じか、あるいはそれ以上に赤くなっていた彼が顔を逸したことをわたしは知らない。
(…こういう会話って何故か耳に入ってくるんだよな)
END