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※恋愛五カ条「2.こころ」「3.どきどきする」の間のお話。







[恋愛五カ条 番外編] 学級日誌の難題







「今日の出来事…かぁ。」



秋の始まり。夏の日差しはもう姿を消し、心地よい風が吹くある日の放課後。
使い込まれて少しよれてしまっている冊子を机に広げ、リノアは頬づえをついて自分の座席についていた。
3階であるこの教室からは、まだ部活動生が走り回っている様子がよく見える。



「あっ。そうだ。」



今日一日を振り返っている最中に思い出した一つの出来事。
リノアはシャーペンを指先で回し、不器用故に一回転もせず落ちてしまったそれを拾い、そして冊子に向き直った。芯を滑らせ、今しがた頭に描いたものを同じようにそこにも描く。
消したり描いたりすること、数分。



(できたー!やっと帰れる〜!)



リノアは帰宅準備を予め済ませていた自分の鞄を肩にかけると、その冊子を持って教室を飛び出した。



「うっ、わ!?」



足取り軽く階段に通じる曲がり角を曲がったところで、リノアは何かにぶつかった。その拍子に尻もちをつき、手に持っていた冊子は廊下に投げ出される。



「いたたた…。」
「…だから廊下は走るなって言われるんだ。」



間違うはずがない。忘れるはずがない。その声の持ち主を確認するべく、リノアは痛むお尻に涙を浮かべながら顔を上げた。



「レオンハート先生…!」



途端にリノアの表情に花が咲く。思いがけず出会った好きな人、気持ちが踊るのも無理はない。しかも、呆れ顔のスコールが傍に跪き、リノアに向かって手を伸ばしてくるではないか。



(も、もしかして、手を引いて起こしてくれるとか!?)



出しかけた黄色い声を留め、差し出された手を掴もうとする。が、その手は無情にもリノアを通り過ぎてその背後へと行ってしまった。
その先には、こけた時に落としてしまった冊子。先ほど教室で開いていたページがちょうど開いている。
恐らく、さっきまで教室にいた時、冊子がすぐに閉じてしまわないよう中央の綴じ部分を手のひらで押し、型を付けてしまったためだろう。



「………!だ、だめだめだめだめー!」



見られまいと手を伸ばすが、ひょい、と大きな手が目的のものを攫ってしまう。取り返そうと尚も試みるも、スコールは立ち上がり、リノアと数歩分の距離を取ってしまった。
その目線は今しがた手に入れた冊子―――いわゆる、学級日誌と呼ばれるそれに注がれている。



「…タヌキ?」
「ネコですっっ!!!」



彼がどこの部分を指しているのか、その言葉だけで察してしまう自分の画力を恨む。
日直が書かなければならない学級日誌。そこにある、『今日の出来事をイラストでかきましょう』という項目の話だった。



「今日のお昼休みね、裏庭でご飯食べてたの。そしたら、友達と話に夢中になってる間にちょうど箸で摘んでた白身魚のフライ盗られちゃって。」



イラストを描くまでの経緯を説明しながらスカートを軽く叩いて立ち上がると、未だ日誌を凝視しているスコールの傍に近づく。その手にある日誌を取り上げ、自分の胸に抱き寄せた。
そして、恨めしげにスコールを見上げたリノアは我が目を疑った。



「れ、レオンハート先生…、」
「…何だよ。」



そこには、いつも通りムスッとしたスコール。しかし、その前に一瞬だけ視界に捉えたその表情は、間違いなく、笑みを湛えていた。少し細めた目と、少し上がった口角。
初めて見たその表情は、リノアの心拍数を一気に上げた。



(レオンハート先生が…笑ってた…。)



何も言葉を発さないリノアを不審に思ったのか、スコールは眉を潜める。どうかしたか、とかけられた声でようやく我に返った。



「も、もうっ、勝手に見ないでください!」
「学級日誌なんだから誰にでも見せていいもののはずだろ。」



突如襲った胸の高鳴りに、まともにスコールの顔を見ることすら出来ずにそっぽを向いた。それに加え、咄嗟に可愛くもない言い方をしてしまったことを後悔するがもう遅い。ぐうの音も出ず、悔しいやら恥ずかしいやら。
リノアは頬を染めたまま、唇を噛みしめた。








(好きな人の笑顔は最強なのです。)





「…画力は幼稚園児並か…。」
「今すっっごく失礼なこと言いませんでした?」
「…別に。」



END



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