10.永遠の愛を誓います。






「結婚、しません?」

居酒屋の帰りに
ポロっと菊田から言われた。


私が
赤面しつつも

「うん。」

と返事してから一週間後。



菊田は
私の家に挨拶に来た。


もちろん
私の親は猛反対。


同じ職場では
子供が
何かあった時どうする、
警官で家族を作れるのか
などなど…



だったら
結婚結婚言うなっつーの。


そう私は思っていたが
菊田は諦めなかった。

毎晩毎晩
我が家へ来て、
父のコップへ
ビールをついでいた。




仕舞いには
妹の珠希が

「面白い事に
なってるんだって?」


娘の春香を連れて
実家に
帰ってきてしまった始末。


珠希は
菊田を見た瞬間

「すっごいイケメン!!
なんで
お姉ちゃんばかり!!
私もこの人と結婚するっ」

と菊田に抱き着いていた。


まぁ
そんな妹の悪戯に嫉妬する
私も私だと思うけど…。


そんなこんなで
父と母を説得して
なんとか
許してもらったのは
プロポーズを受けてから
一ヶ月後。

菊田もよく頑張ったな、

今しみじみと思う。



婚姻届は
二人で非番の日に
出しに行った。


だけど
私にとって
一番大事なのは………。






「と、ゆー事で
どうしますか。」

菊田が
顔を覗き込んできた。

その時初めて
私がボーッとしていたことに
気がついた。

「主任?おーい。」

「聞こえてるって。
どうしよっかね。」

今は
菊田と結婚式の事について
話し合っていた。

「しっかりしてくださいよ。
主任が
ちゃんとやりたいって
言うから
こうなってるんですよ。」

「…分かってるって。」

そう。

結婚式だなんて
捜査一課にいるかぎり
絶対に出来ない。

まず、
休みがいつなのかも
わからない。


だけど
私だって
一応は女子であって
一度でいいから
ウエディングドレスを
着たいと思っている訳で…。

「まぁ
そこら辺は
係長に頼み込んでみないと
分からないでしょ。」

「じゃあ
聞いてみますか。」

今日は運よく在庁で
日下班には
帳場が回ってきていた。


つまり
今 十係には
姫川班しかいない。


帳場が回ってこないのは
悔しいが
今はそんなことを
言っていられない。

「主任。
今、日下班が動いてる
帳場が増員かかったので
これが片付いたら
落ち着くんじゃないか、
と言ってました。」

なるほど。その手があった。

別に
親戚を呼んでまで
やりたいとは思わない。

姫川班と係長で十分だ。


とにかく
今は増員のかかった
ヤマに集中しないと…。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

増員がかかったはいいが
結局すぐに
ホシは上がり
私達は非番からの
C在庁となった。


翌日にドレス、式場と
全て決めてしまい
後は
その日を待つばかりだった。









―――――しかし。


ピリリリリ…

「はい。姫川。」

「今泉だ。
悪いが臨場だ。
至急、向かってくれ。」

これほど
犯人を恨んだ
ヤマは無かった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

結婚式(になるはずだった)
当日の夜。


やはり私達は所轄にいた。

姫川班は
今、会議が終わり
解散した所だった。

みんな
散り散りに帰っていったが
私は少し
気になるところがあったので
会議室に残って調べていたら
遅い時間になってしまった。


もちろん、
菊田は待っていてくれた。


「あーあ。
ドレス、着たかったなぁ…」

私は呟いた。

今更どうしようもない事だが
嘆かずには
いられなかった。

「俺は
サイズを合わせに行った時
見たからいいです。
無茶苦茶 可愛い主任を
俺だけのものに
出来ますから。」

私は
恥ずかしくなって
小さく

バカ

と言うと
ため息をもう一度した。

「あーあ。
ホシが上がったら
一発殴ってやろーかな。」

「主任。
処分受けちゃいますよ。」

「でもぉ…。」

私がいじけていると
菊田は
何かに気がつき
ポケットから
何かを取り出した。


――――ハンカチだった。

菊田の誕生日に
私があげた
ブルーのハンカチだ。


そのハンカチを
菊田は私の頭の上に置いた。


私は
置かれた瞬間
このハンカチが
何の役目を
果たしているのか察した。

「えっとぉ…
何て言うんでしたっけ?」

私は

まったく。


ため息混じりに言った。

「汝 菊田和男は
非番の日も
在庁の日も
帳場が立ってる日も
新婦 姫川玲子を
愛し抜くと誓いますか?」

「誓います。」

私、
ふざけたつもりだったのに
菊田ったら
本気にしてるし…

「じゃあ、
汝 姫川玲子は
非番の日も
在庁の日も
帳場が立ってる日も
新郎 菊田和男を
愛し抜くと誓いますか?」

しかもマネしてるし…

「誓います。」

「では、
指輪の交換を。」

菊田はそう言うと
自分の左手薬指から
指輪を抜いた。

私も抜いて
菊田の指輪と交換する。


私の指輪は
すっ と入ったけど
菊田の指輪は
指がゴツゴツしてて
入れにくかった。



無事
指輪をはめ終わると
菊田はまた喋りだした。

「では最後に
誓いのキスを。」

「はあ!?」

「何言ってんすか。
定番でしょう?」

「だってココ仕事場だよ?」

「関係ありません。
ほら、早く
目 つむって下さい。」

私は
仕方なく
目をつむった。


すぐに
私の唇に
暖かい菊田の唇が
あたった。


数秒のキスを
終えると
私は目を開いた。


菊田は
私をまっすぐ見ていた。

私もまっすぐ見た。


私達は
どことなく
もう一度キスすると
そのまま抱き合った。

「菊田。ありがと。」

「どういたしまして。」





薄暗い会議室の中。


二人しか知らない
小さな小さな結婚式。






りん様


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