05.ただ、ひたすらに君を想う






剥き出しになった肩に冷たさを感じて、玲子は軽く身震いするようにして目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光は眩しく、日に日に暖かくなっていくことを知らせるが、朝方の空気はやはりまだ冷たかった。
ぬるいシーツの感触を肌に感じながら、眠たい目を擦ると時計は6時少し前を指していた。

少し長引きそうだった事件は昨日片が付いた。
今日はC在丁だから気持ちゆっくりと朝を過ごせる。
そんなことを考えながら、後ろから抱えるようにして抱く腕の重みを感じる。
薄く開いた目で辿るとしっかりとした大きな手が目に入り、触れたところから少し冷えた玲子の手に程よい温かさが伝わる。

がっしりとした分厚い手。
無骨で優しい手。

この手に昨夜は這うように柔らかく撫でられ、優しく抱かれたことをふと思い出し玲子の顔が熱くなる。
ふつりふつりと沸き立つ欲を抑えるようにして、その掌へ頬を寄せ軽く指を握る。
そしてその感触を味わうようにしてゆるく息を漏らした。

こうして抱きしめられていると、側にいると、あぁ、想われているな、
と素直に感じることができる。
この手に守られ、支えられ、導かれて、そして愛されている自分はなんて幸せなんだろうと。
少し前の玲子には考えられないほどに素直にその想いを受けとることができる。
これもそれも不器用でも真っ直ぐに想ってくれる彼だったからだ。

玲子が慈しむようにして菊田の指先に口付けて、再び寄り添うように頬を近づけるとぴくりと腕に力が入り軽く抱き締められた。

「そんな可愛いことしてると、我慢できなくなりますよ…」

寝起きの掠れた低い声で耳元で囁かれた。

「…何もしてないわよ」

「そうですか…」

しらを切る玲子を試すように『まぁ、いいですけど』と首筋に顔を埋めて話す。
かかる吐息がこそばゆくて、身を捩るようにして向かい合わせになり、隠れるようにして菊田の胸に擦り寄ると更にキツく抱き締めてくれる。

「…おはよ」

「おはようございます。やっと顔が見られました」

普段よりも緩く優しく笑う彼の顎に口付ける。
少し伸びた髭が玲子の柔らかな唇を掠めた。
菊田も玲子の瞼へと唇を落とし、そらから二人してじゃれあうようにして小さく笑いあった。

愛おしくて幸せでどうしようもなくなる。
息苦しくなるくらいに胸一杯に想いが詰まっていく。
この想いを全部伝えられたらいいのに、言葉にすると軽くなってしまう気がする。
それでもぱちんぱちん、と弾けて溢れる出ていく想いに、玲子はゆっくりと口を開いた。

「ねぇ」

「はい?」

「好き、よ」

彼がこういう不意打ちに弱いのは知っている。
もうずっと前から。
赤くなった顔を隠すようにして手で覆うと『玲子、お前のせいだからな』と濡れた目で見つめられ、視界は菊田で埋まった。
かりっと耳朶を甘く噛まれながら、ゆるゆると流れるように触れる掌を感じた。

「好きだよ、」

「じゃあ、私は大好きよ」

一瞬だけ目を丸くし、呆れたようにそれでも幸せそうに笑う菊田の首に腕を絡めた。

ちらりと見た時計はもう6時を過ぎていた。
今日ばかりは穏やかに過ごせますようにと願いながら、目の前の甘い熱へと落ちていった。



どうぞよかったら、あいしてください。





筆者:こうめ様


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