藤堂落城4







やばい。

察知した防衛本能が咄嗟に身を動かした。


ごつん。
そんな鈍い音がした。


至近距離だったからあまり助走はつけられなかったができうる限りの力をこめた頭突きをお見舞いした。



「…〜っ…痛ってぇ……てめ、何すんだ…っ」


左之さんは額を掌で覆い擦りながら俺をじろ、と恨めしそうに睨む。

「それはこっちの台詞だっての!悪ノリするなってば。」
「いや、夢でもみてんのかと思ったんだが…やっぱ現実だよな…」

相変わらず至近距離で俺をまじまじと眺めて。
擦っていた箇所が若干赤くなった額を見てまだ懲りねえのかよ…と思い、また頭突きかましてやろうかと思ったが俺も額が少し痛くてじんじんする。共倒れになるのは面倒だしとりあえず目を伏せて溜め息をついた。

「もー…最悪。早く男に戻りてぇ…」
一くんの寝込みでも襲おうかな…なんて不謹慎な考えすら過る。


「すぐに戻るもんのか?」
「…戻れる予定だったんだよ。でも一くんに断られちまって」
「……斎藤?…どういう事だよ。」

…ん?何かだんだん左之さんの表情が機嫌悪そうな表情に変わっていく。眉間に皺寄ってるし、土方さんじゃねえんだから。

はあ、とため息をついて。
知られたく無かったけれどもうここまで言ってしまったんだからどうでもいいか、と思い。

「その…男に抱かれりゃ…元に戻るって山南さんが…言うから…」

「は?…なんだよ、そりゃ…」
「こっちが聞きたいっての…」
自分で説明するのがもう馬鹿馬鹿しくて空しくて。もう可笑しくなってきた。
あはは、と渇いた笑いをたてながら視線をどこか遠くに移す俺を左之さんはあからさまな不機嫌な顔で見つめてる。何であんたが怒ってんだ。


「へえ…それでお前は迷わず斎藤のとこに行ったって訳か。」
…その前に土方さんに玉砕したけど。

「うん。だって一くんが一番いいと思ったし。」

体に負担がかかるとかって気使って手早くやってくれそうだし、男としての尊厳につく傷が浅く済みそうだからさ…。って長々しい説明は省いた。

実際は事に及ぶ以前の問題だったけどな。

左之さんはそうか…。って小さく呟いた。俺の言葉に対する返事って感じじゃなくて自己完結してる様な言い方だったけど。


黙りこむし、何か気まずい。
そんな妙な空気が耐え難くて。

なのに左之さんは俺を壁際に追い詰めたまま離れてくれない。


「左之さん。そろそろ離れて欲しいんだけど…」

「平助。」

遮る様に俺の名前を呼んだ左之さんが俺の腰に手を差し込んでぐっと思いきり自分の方へ引き寄せてきた。
視界が左之さんの胸板の肌色で埋めつくされて腰に、後頭部に左之さんの掌の感触。回された腕も力を入れて俺をがっちり抱き込む。全く身動き取れなくて苦しい。


は?何これ?どういう状況なんだよ。

「…おもしろくねぇな。」
「…はい?」

身を捩り胸板に押し付けられた顔ごと何とか上に視線を向けると左之さんの金色の瞳が俺を見据えてきて。
こんな左之さんの表情見たことない。
何か抑えてるような。
何かって云われても解らない。怒りでも哀しみでもないしさっきみたいな不機嫌な表情でもなくて。全部織り混ぜたような顔してる。



「お前の身体が男だろうが女だろうが、他の奴に抱かれるなんざ面白くねぇって言ってんだよ。」

言いながら俺を抱き締めたまま畳の上になだれ込んで。のし掛かってくる左之さんの巨体が重い。更に苦しくなってうっ、と苦しげに声を漏らしてしまった。


「っ…さ、左之さん…?ちょっと苦しいってば。何かいまの左之さんおかしいよ。」


這いずって拘束から逃れようとするが全く力を緩めてくれない。


「なあ。俺じゃ駄目か?」
「…え。」

俺の体に巻き付けていた力が緩んで畳と俺の背中の間の腕がすっと引き抜かれた。
でも全身を左之さんの身体で抑え込まれていて全く動けない。


晒を巻いたままの大きい両手が俺の顔を包み込むようにして挟み込んだ。
かさついた親指が唇をゆっくりなぞる。





「口開けてみな。」

そう言った左之さんがいつもと違う、性的な意味合いを感じさせるような低く這うような声色に、どくんと心臓の鼓動が早くなる。逆らえない。
女の身体になったから?囁かれただけで腰からぞわぞわと何かが背中に這い上がってくる。


少し震えながらも口を開いたら

指が侵入してきて。舌先をゆっくりと擽るように撫でてきて。


「ん…」


こういうとき、左之さんの相手になってる女ってどういう風にするんだろう?

どうしたらいいのかよく分からない。
親指の腹を歯で軽く食んで、と小さく水音を立てて緩く吸ってみたら。
もう片方の手が頭に触れて撫でてきて。その気持ちよさにとろんと、目を細めた。


そういえば久しぶりに撫でられたな。何か安心する。
左之さんに撫でられるの温かくて気持ちいい。
そのぬるま湯に浸かっている様なふわりとした気持ちよさが心地よくて、
もっと撫でて欲しくなって指に舌を絡めて吸い付いた。つ、と唇の端から唾液が伝った。
瞬間に左之さんの息を吐いた音がやけに耳に響いた。

「あー…もう無理。…悪い。」
「さの…さん?…っ」


指が引き抜かれて、微睡みから意識が引き戻されて
目を見開いたら眼前に広がる左之さんの切羽詰まった様な表情が一瞬見えたと思ったら唇を重ねられた。

さっきの柔く擽るような指の動きとは全く違う。
奥に縮こまった舌を引き出すように吸い付いてきて。
全部奪ってやるとでも言わんばかりに。
吐く息も熱を孕んでお互い荒くなる。


「…んっ、ぅ…ん…っ!?」

口づけながら左之さんの掌が着衣の間に侵入してきて柔らかく膨らんだ胸をきゅ、と包み込んできた。
その感触にはっとして、流されかけていた自分の、今の状況に頭のなかで警鐘が鳴る。

力を込めて何とか顔を背けてその力強い口吸いから逃れて。
「…っは…駄目…だ!左之さん…っ。っ…ひっ、あ…」
「もう遅ぇよ。…大丈夫。死ぬほど気持ちよくしてやるから。」




して欲しくねぇよ!

だからあんたは嫌だったんだってば!!


叫びたかったけど胸を揉みこまれる初めての感触と、再度降ってきた唇に俺の言葉は有無を言わさず遮られた。



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