誘いの隙2












いつからだったか忘れたけどもう数えるのも野暮なくらい、何度も左之さんとはこういう行為に雪崩れ込んでいる。 

非生産的な行為だとは思うけど 
いつだったかな。 
最初もこんな感じで酒に酔った左之さんに流されちまったんだよな…抵抗したけど無駄だった。きっと形だけの抵抗で、それはきっと見抜かれていた。 
酔ってるしもういいかって思ってしまった。 
何度目かには覚えていく後ろで感じさせられる快感や左之さんの手練れた口吸いや愛撫にも融かされて 






あ…駄目だ頭の中ぼうっとしてきた。 
無理矢理思考力も奪う熱も息苦しさも計算されてるのたろうか。 





角度を変えられ舌が閉じている俺の歯列をここを開けろとでも言わんばかりに突つきなぞってくる。 
熱の籠った擽ったさに頭がぼーっとしてきて流されるままに唇を開くと両頬を大きい掌で固定されて舌が奥に浸入してきた。もはや人間の一部とは思えない、何か違う生き物が蠢いてるような熱さに、動きに脳髄が麻痺する。肩に押し当てていた手がぶるぶると震えて 押し返そうとしていた意思は覆されて今はぎゅっと上着を力一杯掴んでいた。 

「は…っ…んんっ…ぅ…」 

舌先で口内全体を撫でまわされて犯されて。 
掬い上げるようにされたと思うと思い切り吸い付かれて身体がびくっとしなった。 


鼻だけで何とか酸素を取り込む。口を封鎖されての呼吸は苦しくて胸が激しく上下する。 
苦しさに力を振り絞って頭を横に倒そうと唇を離すが頬に当てている掌に力を入れられて引き戻されて再度押し当てられちゅ、ちゅと鳴らされる水音に恥ずかしくなりぎゅっと目を瞑る。 

「っあ…あ…」 

目を閉じるなとでも言わんばかりに 
唇から移動した舌が俺の顎下をぺろと撫でると軽く歯を立てられた。 
首筋をつぅと嘗めて何度も吸い付いて鎖骨に歯を立てられた。緩い痛みと刺激とを繰り返されて、はぁはぁと浅い呼吸を小刻みに繰り返して訳が解らなくなって涙が流れた。 






惚けた表情をしたまま左之さんをぼうっと見つめると 
、もう先ほどまでのおどけたような笑みなど浮かべていなかった。欲に満ちた瞳にぞくぞくとする。 

さっきまであんな、無防備に眠っていたのに、一緒に笑っていたのに。 
違う生き物になってしまったかの様な豹変。 






やばい、この目は最後まで進める気だ。 





服を左右に割り開かれたと思うと掌が早急な動きで胸の辺りを撫で回して乳首を指先で摘ままれた。 

そう思った矢先、指で転がされてる方とは逆のそれに吸い付かれた。 
ねっとりと絡み付く熱い舌に驚いた。 

「ひっ……ッ…や…ちょ、まっ…」 


固く尖った舌に強く押し潰すようにつつかれてはじゅると本当に食べられてしまうのではないかと唾液の音を混じらせて歯を立てられてしゃぶりつかれて。 

指では芯をさわらず周りだけをくるくると焦らすように撫でられて平等でないその二つの刺激がもどかしく腰が揺れる。 

「…ッ…ぅぅ…や…」 

熱い。 
下腹部に溜まっていく熱がもどかしくて内股を擦り寄せた。 

その様子に気を良くしたのか指先だけで弄っていた方の乳首にも強く吸い付いてきて、何度も吸ってはちゅぱと離して繰り返されるとじくじくと痛みにも似た快感を与えられた二つの突起は紅くそり立って。 

じわじわと与えられる快感に下が張りつめてきたのかじくじくと血流の集中に痛みさえ感じる。 



無意識に腰帯を緩めようと下に手を伸ばせばその腕を捕まれて、胸元で囁かれた。 
「…一人でしてるとこ、見せてくれんのか?」 

「な…っ」 
はっとしたように身を竦めると自分の行動に羞恥心から顔が更に真っ赤になる。 
乳首に吸い付きながら上目遣いに俺を見つめる左之さんのぎらついた視線に耐えられなくて顔を横に背けた。 
左之さんは掴んだ俺の手の甲に唇を寄せて指の間や腹を熱い舌で嘗めて弄んできて。指先を責められるのがこんな燻られるとは思わなくて。 

「それもいいけどな」 


気を取られているうちに左之さんはしゅると腰帯を器用に抜くと下帯もずらして起ちあがって震えている俺自身を大きい掌で覆って形を確かめる様に揉み込んできた。

「俺がしたいから、駄目だな」 
「あ…ぅ…っ…」 




胸を解放した左之さんの身体が少しずり上がってきて横に背けた俺の顔を引き戻して視線を合わせるように真正面に捕らえられてしまった。 


やわやわと触っていた手の動きが変わる。 
竿を掴むと上下にゆっくりと扱きだした。 
自分一人ですることも勿論ある。それと同じ動きなのに快感は桁違いだった。 


「あっ、ァァッ…ん…ああっ!」 
完全に固くなり勃ちあがった事を確認するとさらに手の動きが早くなり握りこむ力が強くなった。 
急に強くなった刺激に思わず声量が上がってしまい 




「しー…新八起きちまうだろ?」 

にいと悪戯を心の底から楽しんでるように人差し指を俺の唇に当ててきた。 

「…ッ!」 


完全に忘れていた。隣の部屋に居るはずの存在。 


亀頭を指の腹で円を描くようにぐりぐりと何度も刺激されるとぷくと先から液が分泌されて左之さんの指を濡らすと潤滑替わりになったのか扱く動きにぐしゅぐしゅと厭らしい水音が静かな部屋に響いた。 

「さ、の、さん…ッ…や…ぁっ…や…い、や…」 
「…ん?」 

顔を見られたくなくて背けようとしても左之さんの手がそれを阻む。生理的に流れる涙がその大きい掌を濡らした。 
「嫌?」 

目を細めて俺を舐めるような熱を込めた視線で射抜く。口角が少し上がっていて。総司がしそうな意地悪そうな、表情を浮かべて吐息混じりに伺われた。 

扱く動きを止めて緩い力で先を撫でられたり指先で伝うように筋を撫でられて何度も行ったり来たりを繰り返して、震えた先から透明な液が溢れて。早く解放したいと戦慄いている様だった。 

「…っぁ…んん…ぅっ」 
もどかしさに腰が揺れて、内股がぴくりと震えた。 

こんな限界を引き伸ばされて状態で嫌、とかやめろとかなんて言える訳が無いのに。 


「なぁ…どうする…やめるか?」 
耳の中に舌を挿入されて脳髄に直接ぴちゃぴちゃと音が響いて思考力を奪って唆すその問いは解りきっている答えを促す。 

また、緩く扱きだされてひくと喉を反らせた。 


快感に屈服させられた答えなんて決まってるのに 
苛めたがる目の前の男に少し悔しさが滲んで涙が止まらない。 
「…っん……っ……さの、さ…」 


「んな、顔すんなよ」 

冗談だ、なんて言いながら。 
唇を合わせられて、息継ぎの間にかかる左之さんの息もはぁはぁと熱くて荒い。動物みたいな、興奮を隠そうとしないその接吻に胸がはりさけそうになる。 

扱く手が絶頂を促す動きに変わるともう何も考えられない。ただ与えられる快感に身を任せるだけで、 
角度を変えては唇を貪るから鼻でしか呼吸出来なくて酸素の供給量が足りない。 


「…っ…ん…ん…」 

舌を突き出して絡めると唾液が溢れて飲み込めない 
左之さんの唾液も俺の舌を伝って唇の端から流れていく。 

「ん…ん…だめ、も…いく…いく…ッ…」 

左之さんの掌の中で更に膨らんだ俺がびく、びくと生き物みたいに痙攣し始めて。足の指がぐ、と猫の手みたいに無意識に力を入れて丸くなる。 

「いいぜ。…いけよ。」 

涙でぐしょぐしょになった俺の目元に慰める様に唇を寄せて、 
扱いてる手はそのままにもう片方の手が俺の手に合わせられて、指を一本一本丁寧に絡められた。 



下半身への刺激に加えて唇が触れあうすれすれの至近距離で欲に染まった金色の瞳が俺を捉えたら、うっとりと目を細められた。 

「あ…やっ…や……ァッ…んっ…声……ッ」 

捕まえられていない方の手を震えながら口に押し当てても抑えられない。いやいやと、首を横に小さく振って、訴えても。その様すら愉しそうに凝視されて。 



額を擦り合わせて無理矢理視線を合わせられた。至近距離の開いた瞳孔の、その瞳の中に俺の顔が映った。 


視覚も聴覚も犯されてしまうような、そんな感覚にもう寸分たりとも耐えられる筈が無かった。 

身体が仰け反って。握っている手にぐっと力を込めたら 
「いく、出る…っーーっん、ん…ぁァァッ…んっ……!」 

歯を食いしばるように唇を引き結んで、快楽に耐えるように震えるが漏れる声が抑えきれるはずなくて。 

左之さんは寸前に鈴口を掌で被せてぎゅ、と覆うように白濁とした俺の精液を受け止めた。 
一気に出なかった分が後からびゅく、びゅくと動く度に少しずつまだ吹き出している。 
受け止め切れなかったぶんの精液が俺の内股にぽたと落ちて。 


「…は…ッ…ぁ、ァ…」 
激しく胸を上下させて呼吸を整えようとするがまだ思考も熱も落ち着く気配がなくて苦しい。 
力が抜けてしまい、こてんと頭を傾けると頬から流れた涙が畳に染み込んでいった。 

溢れて止まらない。 


脱力感に動けない俺の首筋あたりに顔をうずめてぐりぐりと思いきり押し付けて力を込めてきた。何だか甘えられているみたいで何ともくすぐったい気持ちになる。 


「…やべえなあ。」 

「あ……な、に…?」 




「声我慢してるお前の必死な顔見てるだけでいきそう」 
「…っ!な、っ…?」 

そういうことケロッと言うなよ本当に 
羞恥心とか持ち合わせてねえのかこの大人は。 
言われたこっちが恥ずかしい。 



「さてと…」 
頬をするりと撫でられて。 
被さっていた巨体が俺から離れて。 
左之さんは膝立ちになった。 





もしかしてこれで終わりなのだろうか。 
さすがに新八っつぁんが隣で寝転げているから最後までするのはさすがに譲歩してくれたのだろうか。 

酒入ってるから今日はもしかしたら勃ちにくいのかな。なんて勝手に下世話な解釈した俺は掌で涙をぬぐって安心したようにほぅ、と息を吐いて腰を浮かせた。 







「何勝手に終わろうとしてんだ。」 


え?と言いながら涙で視界が滲んで不安そうな瞳で相手を見つめると 
すごい力で肩を捕まれた。 
瞬間ひっくり返されて俯せにされて。視界から左之さんが消えて目の前には畳と自分の手の甲だけになった。 

早急な動きでぐいと腰を浮かされると俺の精液でべとべとになっていた掌を後孔に擦り付けるとぐちゅと音を立てた。 
指先が菊座をつついて思わずひくりと震えた。 

「あ…!だめ、…」 

その感覚にびくっと肩を震わせると体全体を強い力で抱き込む。背中に覆い被さってきた左之さんは項に唇を押し当ててきて吸い付いてきた。背中から腰にかけてぞくぞくと甘い痺れが走る。 

「…っあ!……うぅっ…く…」 

内部に押し入ってくる質量に身体が悲鳴をあげた。 
左之さんの長くて、骨ばった指の感触に思わず唸る。 

江戸から戻ってきて間もないから左之さんとしてない。別に男色家って訳じゃないからもちろん遠征してる間も男とはしてる筈も無い。 
けど。 

「久しぶりの割りには柔らけぇな…なぁ、何でだ?」 
「…っあ!」 

言いながら指を2本に増やされて。 



言える訳無い。 
左之さんに開拓された身体は前だけの自慰で物足りなくて、あの熱くて太いそれで突かれたいと。代わりに自分の指で後ろも弄って。それでもまだ足りなかった。幾度かそんな夜を過ごし火照る熱を収めるのに必死だった。手が届かない場所にあるからこそ余計欲しくなる。 

 絡みつくように肌を密着させられて、違和感を感じた。 
布越しではあるがそれでも起立してるのが解るくらい固くなった左之さんのものを尻たぶに当てられて、擦り付けられた。 


「平助…寂しかったか?ここ…自分で弄ってたんじゃねえのか」 
「…っうあっ、ん、んぅっ」 


そんな事知られたくない。必死に首を左右に降ると、 
ぐり、と俺の弱い部分を的確に狙って刺激してくる。 
指を抜き差しする速度が徐々に早くなって、図星を突くように、耳を塞ぎたくなるようなぐちゅ、ぐちゅと精液の音が俺のそこから鳴らしていると思うと恥ずかしくて仕方ない。こんな格好でこんな喘いで。隣に新八っつぁんもいるのに… 
そう思うのに抗えない。 

耳元で囁く声も言葉も媚薬みたいで。 

「あ?してねぇのかよ。…じゃあ違う奴に抱かれたのか?」 

お前すぐ流されちまうもんな。 
「…っ!」 

自分が流されやすい性分なのは分かってる。 
でもそれは身体を許すとか、そういうことじゃない。 
自分の考えに自信が無いとどうも周りの意見が正しいのか、とか、これで良かったのかとか惑うそういった精神面であって。 


「…馬鹿いうなよ…っ!左之さんだけ…ッ…に決まって…あ、あぁっ!?」 

少しの怒りを込めた精一杯の反論はいきなり強く捻りこんできた熱と衝撃で打ち消された。 
首を反らせて身体がびくりとしなる。 

離れて過ごした幾度の夜欲しくて堪らなかった熱が浸食していく。 
俺自身が望む望まないに関わらず身体は悦ぶ。痛みも何もかも歓喜に震える。身体はもう完全にこの人に堕ちていると痛感した。 

手の甲に涙がぽたりと落ちて俺の理性はがらがら崩れ落ちていく。 
姿が見えないこの体制が怖くて左之さん、左之さんと必死に名前を呼んだ。 




「俺だけ……か。」 

嬉しそうに呟くと 
左之さんの指が背中や腰をやわやわ撫で擦る。普段触られたって少し擽ったいくらいの場所全てが感じてしまう。その感触にひくりと締め付ければ息を大きく吐く音が聞こえた。 


どうしてこの人に触れられるとこんなに気持ち良くなってしまうのだろう。 



駄目だ。 
早く動いて。突き動かして。 
俺のなかを満たして。早く。 


「…っあ、さの…さん…!んぅっ…はやく、もっと…」 

腰を揺らして自分から欲しい場所に動かしたら 
強請った場所に的確に射たれて、目の前に閃光が走ったかの様な衝撃に頭がくらくらする。 
もう隣に新八っつあんが寝てるとか門限がどうとかもう頭の角にも残っていない。 
左之さんで身体全部が支配されてしまっていた。 

「あぁッ…!あ、!あっ」 

ぱつんと肌同士がぶつかる音やぐちゅぐちゅと水音が激しい抽送を物語る。 


はあ、はぁと荒い息を吐きながら左之さんは覆い被さってきて捕食でもするかのように耳の中に舌を差し込んで片手は震えて限界の近い俺の性器を握りこんで扱きはじめた。 

「あぅ…っ!…いき…たい、…さのさ…っ…いきた…」 

泣きじゃくりながら 
揺さぶられて朦朧とする神経を繋いで 
顔を何とか後ろに向けて必死に懇願した。 

「そうだな。…時間もねぇしな」 

帰ってからもう一回な。と 
余計な一言を付け足されたけどもう今はひたすら頷いた。絶頂を追いかけるのに必死で頭に入ってこなかった。唇を合わせられたから首を捻った間接が痛かったけど離れないように追いかけて吸い付いた。 

打ち付ける腰の動きが速さを増して裡の左之さんの雄が膨らんでいくのが解る。 
唇の間から漏れるお互いの熱く濡れた息が行き来する。 

「あ、もう、…いッ…あ、んんっ…!う、ああっあっ!」 
「我慢すんな。いっていいから…」 

握りこんでいた俺の自身を親指の腹で亀頭をぐり、と絶妙な力加減と早さで擦られて、後ろの刺激とでもう訳がわからなくなってしまい自分で制御出来ず左之さんにされるがまま放埒を迎えてしまった。 

「…っあっ!ん…んっ、さの、さ…や、動っ…かないで…っ」 
「悪い。…っ…くっ…もう少し…」 

俺がいった後も左之さんは腰を打ち続けてきて。 

白濁をだらだらと垂らしながら力なく乞うても止まってくれなかった。 
射精した後の、そこは酷く敏感で強い刺激は逆に辛くて蠢く膣内は無意識に左之さんを力一杯締め付けた。 
すると左之さんが唸るような吐息を交えた低い呻きを上げて内部でその雄が弾けた。 
流れ込んでくる熱に全身が熱くてとけてしまいそう。 






「あ、……俺、も…だめ…」 
「おい、…平助……平助?」 


力が抜けた俺はがくりと上半身を地面に預けて崩れ落ちた。腰は左之さんにがっしり捕まれているから膝は立てたままで情けない格好してると思うけど遠征と、巡察と今ので体力の限界が天元突破した。 
瞼が重くて、目の前が白く霞んでふわふわした感覚に包まれていった。薄れる意識の中頬や頭を撫でる掌が暖かくて気持ちよくて擦り付けながら、そのまま目を閉じた。 












ふぅと、ため息をついた原田が目線を平助から離した。 
「…覗き見たぁ悪趣味だな?」 

ぼそ、と原田の呟いた一言で隣の部屋からがしゃんと何かをひっくり返した様な音が聞こえたかと思うと襖がそろとゆっくり開いた。 
隙間から遠慮がちに永倉が顔を覗かせた。 

「あ…悪趣味はお前らの方だろ!あんなでっけえ声出しておっ始めやがって…こっちの身にもなれってんだ!」

ちら、と平助を見やった永倉は乱れきった衣服や情事の後を残した現状を目の当たりににして顔を青くして 
お前ら本当にやってたのかよ…と肩をがくりと落とした。 

「新八、声でけえよ。平助起きちまうだろ。」 

そんな永倉を他所にしれっと気を失っている平助の身なりを整えながら、迷惑千万とでも言いたげにじろりと睨みながらそうぴしゃりと言い放った。 
そうさせてるのはお前だろ!と言う気すら失せた。 


平助の着衣を直すと原田は隣の部屋から手拭いを取り体液やら何やらで汚した畳を拭いているとその間も後ろからぶつぶつと永倉の独り言が耳につく。 
うーあーとか訳のわからない唸りを上げながら 

「…左之が女に飽きてとうとう男に…しかも平助に手ぇ出すなんて…もしかして俺まだ寝てんのか?これは夢か?夢なのか?」 

頭を両手でがしがし掻いたり頬を引っ張ったりしてみる永倉にうんざりした原田の表情に永倉は気づかない。 

「あーそうかもな。それよりもう門限近いぜ。俺らは先行くからな。」 

平助を背中に担いで立ち上がると、座り込んで混乱に未だに頭を抱えている永倉の背中をげしっと蹴りあげて 
勘定はよろしくなと言い捨てる。聞いているのかいないのか未だに念仏の様に何かを呟く永倉に溜め息をつきながらすたすたと部屋を後にした。 









店を後に帰路につくとやはりこの時期夜になると格段に冷え込む。汗が冷える前に早く屯所に着きたい。 
すうすうと規則正しい寝息が聞こえる。担いだ平助を首を捻って見ればその安心しきった寝顔に頬がふと弛んだ。 

「無理させちまったな。」 


彼が随分と疲労しているのは分かっていた。 
けれどあの様に寝ている隙に無防備に近付いて、触れて、あんな表情を見せられては。 
どうも彼に対しては理性の糸がすぐぷつりと切れてしまう。触れたくて、深いところまで入り込んで全部暴いてしまいたくなる。 
酔った勢いに見せかけて雪崩込んだあの日抵抗もそこそこにあっさりと受け入れた平助に驚いたのも覚えている。だからきっと満たすのは自分だけでは無いと思い込んでいた。離れている間に誰かに触れられたりしていないかなんて矮小な事も考えた。 




けれど今日初めて平助の口から原田だけだと告げられた事に酷く歓喜した。 
離れて過ごした間に自分を思い欲してくれていたことが嬉しかった。 

自分からは何も告げず相手にばかり求めるなんて卑怯かもしれない。身体だけでも繋げたい。そんな思いから始まってしまった一夜の欲が今では彼の何もかも全て手に入れたい独占欲に変わってしまって。 


「少しは期待していいか…平助?」 




相手に聞こえる筈の無い、その切を含んだ声色の言葉は夜風とともに静かに消えていった。 











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