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前編

もとより、付き合いの長さとは比例することなく俺とナマエはつかず離れずの距離を保ってきたはずだった。
(その一因は恐らく俺にあるのだろうが)

浅井の下で共に武を振るい、初めての主君を失い意気消沈した俺に『生きろ』と叱咤し、家臣団が散り散りになった後も顔を合わせれば軽口を叩いてきたあの女とは、気がつけば三月ほど顔を合わせていない。

俺が牢人となっていた頃や、ナマエが武者修行と称してふらりと出かけているというのならば、そのぐらいの間会わぬことなど別に特別なことでもなんでもなかった。

しかし今は、俺は秀長様の元、ナマエは秀吉の元という違いはあるものの、同じ豊臣の元に仕える者同士。
ぱったりと見かけなくなる前までは、秀長様に付き秀吉の元に参内する折や、城下などで、声はかけずともその姿を見かけることは多々あったのだ。

気づけばあっちをふらふらこっちをふらふらとしているあの女のことだ、またどこぞにでもふらりと放浪しているのかと思えば、
ある時は秀吉の子飼いの三馬鹿と城下でひと騒動起こしていたらしい。
だの、またある時は長政様とお市様の忘れ形見である三姉妹方と共に舟遊びに出かけたらしい。
だのと、聞こえてくる噂はどれもごくごく近くでの事柄ばかりである。

しかもつい今朝方など、生憎俺は合い見えずに終わってしまったが、秀長様の元に秀吉からの遣いとして来ていた
という話を先ほど秀長様ご本人から伺ったのだ。

来たなら来たで顔のひとつでも出せばいいだろうに、何だか釈然としない。


「ナマエが来ていたとは、全く気づきませんでした」

大人げないことに思わず少しばかり恨めしげな色合いが声音に混じるも、
我が主君は含み笑いで受け流し、とんでもない爆弾を落とした。

「それはそうだろう。何せ高虎、お主が居らぬ時を狙ってナマエ殿は参られたのだからな」

「は?あ、いえ、ひ、秀長様、それは一体何故でございますか」

思わぬところから、ここ数月さっぱり顔を合わせることがなかったのは意図的にナマエから避けられていたのだ。という事実が判明した。
偶然会えずにいたのと向こうが意図して会わないようにしていたのでは話が違ってくる。
何故だ。そのように避けられるような事をした覚えもいわれもないというのに。


困惑する俺をよそに秀長様は、

「そろそろ頃合いであろうからな、気になるならば直接聞きにいくのがよかろう。ああ丁度良かった、今日の内に兄上に渡す予定の書状があったのだが、ナマエ殿に預けるのをすっかり忘れておってな」

と、あたかもいいことを思いついたとでも言うように秀吉にあてた用事を言付け、
やはり含み笑いをしながらさっぱり事情が飲み込めぬ俺を送り出したのだった。


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