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後編

清正殿の部屋に転がりこんで泣くだけ泣いたらようやく頭が冷えてきて、
なんて時間に押しかけてしまったんだろうと血の気が引いてきた。


「……こんな刻限に押しかけてしまい、申し訳ありませんでした」
「いや、いい、少しは落ち着いたか?」
「はい、だいぶ、あの、本当にすみませんでした。もうお休みになる所でしたよね」
「いや、気にするな。……それより、聞きたいことがあるんだが」


ここまで何も言わずに泣かせてくださった清正殿の優しさに感謝し謝罪を述べ部屋を出ようとすると思いのほか真剣な面持ちで引き留められる。
が、そこから清正殿は何かを言おうとしては口を噤むを繰り返し、なかなか先を言おうとしない。

視線で先を促すとようやく口を開いた。


「ナマエ、気を悪くさせたらすまないが、三成のどこがそんなにいいんだ?」
「……へ?」

何を聞かれたのか一瞬理解できず、思わず聞き返してしまうと、清正殿はばつが悪そうに頭をかきながら再度質問してきた。

「だから、三成のことを好いているんだろう?お前は。どこに惚れたんだ?」
「え、今言わなきゃだめですか?」
「いいから言ってみろ」

清正殿は一歩も引く気はないようで、
何故私は振られたのにこんな傷を抉るようなことをしなければいけないのだろうか。と遠い目になりつつ三成殿の好きなところを探していく。

「……えーと、無愛想に見えてなんだかんだで優しいところ、とか、ですかね」
「俺はいつでもお前に優しいぞ」


間髪入れずに返してくる清正殿に
いくらお二人が武功を張り合う仲とはいえ、そんなところで張り合わなくても……なんて考えているとなんだか雲行きが怪しくなってくる。

「俺だって、それなりに強いし、秀吉様からの覚えもめでたい。もうすぐ城持ちになるし、出世街道まっしぐらだと言っても過言じゃないぞ。将来安泰だ」
「え、あの」
「自分で言うのもなんだがあいつには確かに劣るが顔もそれなりな方だと自負してるし、城作りで右に出る者はいない」
「き、清正殿?」

何故だかぐいぐいと迫ってくる清正殿に半ば怖じ気づいていると

「……なによりナマエ、俺はお前を好いている」


「う……」

その言葉だけやけに優しい声音で言うものだから、否応なく顔に熱が集まって来てしまった。
それを気づかれたくなくて顔を伏せようとするも、
いつの間にやらそのたくましい手で肩をがっしりと掴まれていて目をそらすことも許されない。

まさか、そんな、清正殿が私を好いていただなんて。
そんなことを聞かされて赤面しない術があるなら今すぐ教えてほしい。
ああなんて私は現金なやつなんだろうと自己嫌悪に陥りながらうろたえていたら、


「こんないい物件、後にも先にも現れないと思うんだがな」


とめったに見られないような柔らかい微笑みでトドメをさされて断れる女がいるなら見てみたい。









(か、考える猶予は……)
(即決以外認めない)


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