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前編

「あー、ほら、あれだ。あんな頭でっかちと付き合っても苦労するのが目にみえ
「みつなりどののこと、わるくいわないでくださいぃっ…」

「……」

夜もとっぷり更けて子の刻にさしかかるころ。

部屋にはさめざめと泣く女とそれを眺めて途方にくれている男が一人ずつ。

(……どうしろっていうんだよ、これ)











戦のおかげで溜まりに溜まった政務をなんとか終わらせて、さあ寝るか。と支度をしていた清正の自室にナマエは突然転がりこんできた。

いきなりのことに、それも気になっていたナマエがこんな夜更けに訪ねてくるということに面食らったがなんとか平静を取り戻し、どうした。と聞いて見るがナマエは黙って座り込んだままで。

このままでは埒が開かないとナマエの顔を覗き込んでみると、瞳には涙の膜が張っていて、ああ溢れるな。と呑気に考えている間にぼろりと零れ、ナマエは本格的に泣き出してしまったのだ。

要領を得ないナマエの話を統合してみると、先ほどまで三成に次の戦の指示を受けていたナマエは以前から三成に好意を持っており、何故かついうっかり想いを口にしてしまい手ひどく振られて来たのだという話だった。

常日頃は女だてらに自分たちと同じように戦場を駆け、成果を上げる一端の武将であるナマエ。

そんなナマエがこんなにも泣くほどに三成に想いを寄せていた。という事実も気に入らないがナマエに想われているというのにそれを無碍にした三成も気に入らない。

どす黒い感情が腹の中をぐるぐると巡っているのに気づき苦笑する。

矛盾しているな。とひとりごちながら清正は先ほどから気になっていたことをぶつけてみた。

「で?なんでまた俺の部屋なんかに来たんだ」

何か特別な理由でもあればいいのに。

「う、あ、あかりがついて、いたので、つい」
「……ああ、なるほど」

しゃくりあげなから答えるナマエの言葉に、
ああ、期待して損したな。と自嘲しながらも、この時間まで起きていて良かったと思う自分がいて、ああ本当にどうしようもない。





願わくば、早く彼女に笑顔が戻りますように。


(ついでに俺の想いに気づいてくれれば言うことないのに)


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